春の訪れも近い。
温かくなると、「春眠暁を覚えず」という言葉もあるように、眠くなってきたりするものだ。
人は人生の約3分の1を眠って過ごす。それほど大きな存在でありながら、実は睡眠についてはまだまだわかっていないことが多い。最新の研究をもってしても、睡眠について解明できているのは、せいぜい2割程度だという。
睡眠は、世界最高峰の研究機関、スタンフォード大学が半世紀以上にわたり、力を入れて研究している。後回しにされがちだが、そのくらい人間にとって重要なものなのだ。
スタンフォード大学医学部教授であり、同大学の睡眠生体リズム研究所所長を務め、3月に初の日本語での著書となる『スタンフォード式 最高の睡眠』を刊行した西野精治氏に話を聞いた。
西野氏は、多くのアスリートから支持されている寝具「エアウィーブ」の開発にも関わっている。
よく眠るとパフォーマンスは格段に上がる
「病気に関する研究は何百年も前から行われていますが、睡眠に関する研究は長い間、ほとんど行われてきませんでした。本格的な研究が始まったのは、1950年代以降のことです。
研究の歴史が浅いことから、まだ解明されていない部分もとても多いのですが、『今日はよく寝たから調子がいい』『今日は睡眠不足だから不調だ』といった経験は、誰もがあると思います。
面白い実験結果があります。スタンフォードの男子バスケットボール選手を被験者とし、10人の選手に40日間、毎晩10時間ベッドに入ってもらい、それが日中のパフォーマンスとどう関係するかを調査したのです。
実験が2週間、3週間、4週間と進むうちに、80メートル走のタイムは0.7秒縮まり、フリースローは0.9本、スリーポイントシュートは1.4本も多く入るようになり、選手からも「すごく調子がいい」「ゲーム運びがよくなった」という声が集まるようになったのです。
しかし、実験終了後に10時間睡眠をやめてからは、選手たちの記録は以前のものに戻ってしまいました。
この実験結果からも、睡眠をしっかり取れていることでパフォーマンスがよくなる、それは間違いありません」