国土交通省は2020年に訪日外国人旅行者を4000万人にするという目標を掲げており、そのためのビザの緩和など、環境整備は一層進んでいく。
東京、大阪などでホテルの予約が取れない状況が続いている。
観光庁の発表した2016年のホテルの客室稼働率は東京で79.4%、愛知県で70.3%、大阪府で84.1%となっている。
都心部のホテルは100%に近い高い稼働率が続き、その影響は海外からの旅行客だけにとどまらない。
影響は日本国内を出張するビジネスパーソンにも及んでおり、直前に決まる出張などの際、多くの人がホテル探しに苦労している。
不足する宿泊施設対策として政府が後押ししているのが、民泊だ。現在は大田区など特区に指定されたところでのみ民泊営業が可能ということになっているが、それ以外の地区でも行われており、規定する法律がないことからグレーゾーンとされてきた。
宿泊施設を増やしたい政府と、競合することを恐れたホテル、旅館業との折り合いがつかず、法案の提出は大幅に遅れたが、今国会で、民泊を解禁する法案が成立する公算が高まっている。
民泊に関する法律が制定され、規制が緩和されることで、多くの企業も民泊ビジネスに参入するようになることが予想される。
2017年の中小企業白書によると、中小企業3000社以上を対象とした意識調査の結果、民泊などのシェアリングエコノミー(共有型経済)に関連したビジネスに「関心がある」と答えたのが回答者の4割弱で、約1割がモノやサービスの利用者らをつなぐ「プラットフォーム」の提供者として「事業参入を検討している」と回答している。
シェアリングエコノミーで実際に始まったのが、日本人の出張に民泊を利用するサービスだ。3月より始まった「トリップビズ」は外国人が家の近所に泊まるのは抵抗があるが日本人なら知らない人でも構わない、という近隣トラブル対策のされたサービスだ。
最大手の民泊サービスの1つ、Airbnbは日本に定着したが、同じく大手の民泊サービス、ホームアウェイもこのたび日本に本格上陸した。都心部の少人数若年層向けのAirbnbに対し、ホームアウェイは中高年層大人数、地方向けのサービスゆえ、今後は民泊の流れも多岐にわたり、また地方部へも広がっていくと予想される。
ただし、今後、民泊はますます活性化が進むかというと、決してそうとも言えない。法案には「年間の営業日数は180日まで」といった規制が加わる見込みで、そうなれば稼働できるのは最大でも年に半分程度となる。
地方自治体が条例によって営業日数をさらに制限できる規定も盛り込まれているため、そうなると営業できる日数はさらに少なくなる。
それでは事業目的の民泊の多くは機能しなくなり、そのため民泊市場もそう伸びないのではないか、そう考える人も多い。
解決すべき課題は日本人旅行者の増加でもある
また、訪日外国人旅行者が増えたことで、日本の観光業はどこもさぞウハウハかというと、決してそのようなことはない。「星のや」などのリゾートホテルを経営する星野リゾートの星野佳路代表は、『ウォール・ストリート・ジャーナル』のインタビューで、以下のように話している。
「インバウンドが増えたと言っても日本の観光消費額の10%にやっとなって、それが15%になろうかというところ。国の(インバウンド)目標を達成してもそれが20%を超えるかという程度。つまり7割か8割は日本人による国内観光消費。そこが問題。2013年から14年にかけて象徴的な出来事があった。インバウンドは1.7兆円から2.2兆円に伸びたが、20兆円近くあった国内市場が落ちて、トータルの旅行消費額は落ちた」
訪日外国人旅行者が増えたところで、それ以上に大多数を占める日本人旅行者が減ってしまっているというのだ。
星野氏は外国人旅行者に頼るだけでなく日本人が旅行に親しみを持つための働きかけが大切になると語る。
政府が掲げる観光立国政策。そこには課題もビジネスチャンスも眠っている。