恵比寿駅を出て坂道を登り、大きな道路を渡って進むこと15分。山種美術館は王道、正統派の日本画を所蔵する日本画専門美術館で、歴史の教科書に載るような作品もあり、ファンも多い。
山種証券(現SMBCフレンド証券)の創業者、山崎種二氏のコレクションが中心で、山崎氏は多くの画家の支援もしていたことから、「この人の作品収蔵数は日本一」という画家も何人もいる。
日本画専門美術館ゆえ、その専門性は高く「戦前は大家といわれたが最近では評価の低い画家」「これから5年もすれば一気に有名になる」といった情報にも詳しく、幅広い作品を所蔵する。
美術評論家の山下裕二氏が「5年後に有名になる」と太鼓判を押す渡辺省亭「牡丹に蝶図」
「この画家にしてはそこまでよい作品ではない」と評価する作品もある。日本画の大家、横山大観の作品「寒椿」に対し美術評論家の山下裕二氏は「大観らしさが出ていない。つまらない作品」と手厳しい。
山下氏が「横山大観らしくない」と評する「寒椿」
江戸琳派の旗手とされ、近年注目度の高い鈴木其一。琳派の継承者、酒井抱一の弟子だが、抱一の死後に独創性を発揮するようになる。琳派の特徴的な画法「たらしこみ」などを継承しながらも、金以外の色を多用、べったりとした塗り込み、先述の山下氏曰く「グラフィックデザインのような幾何学的な構造」が特徴だ。
山種美術館で現在開かれている展覧会に出展されている鈴木其一作品「四季花鳥図」は、かなりその塗り込みが激しい。もはやムラにも感じられるほどに。
鈴木其一「四季花鳥図」の拡大図
今回の展覧会のテーマは「花」で、様々な画家が描いた牡丹の絵が第二展示室に飾られている。
山種美術館が多くの作品を所蔵する速水御舟、菱田春草などの作品が飾られているほか、鈴木其一の牡丹図もある。幾何学的な構造はほかの作品と同様だが、その作品には四季花鳥図のような激しい塗り込みは見られない。
鈴木其一「牡丹図」
酒井抱一の知名度に比べ、その弟子の鈴木其一はそこまで知られた存在ではなかった。
昨年はサントリー美術館で単独の展覧会が開かれるなど、現在はその評価を大きく高めてきている。
根津美術館はゴールデンウィークの時期に国宝の「燕子花図屏風」を展示しており、今年は鈴木其一の「夏秋渓流図屏風」も展示される。
どちらも見ておきたい。