ダリオは変節した?
ヘッジファンド界の巨匠、レイ・ダリオ氏は、当初のトランプ大統領支持から、その後は懐疑的なスタンスへと変化しているように感じられる。
ダリオ氏はトランプ大統領当選の直後は「トランプ政権がアメリカや世界に対し強いイデオロギー的インパクトを放つことは間違いない」とし、
1979年から82年にかけてアメリカとイギリス、ドイツが経験した「社会主義者から資本主義者」への政権のシフトよりも著しい経済的な変化が起きる可能性があるとコメントしていた。
「トランプ氏が大統領になることで、“アニマルスピリット”が引き起こされ、すごい時代を迎えることになるだろう」とまで言っていた。
そこまで言っていたことを考えれば、ダリオ氏はだいぶ考えを変えたようにも感じられるが、一概にそうとは言えない。
ダリオ氏が批判的なスタンスになるのは、主にトランプ氏の「アメリカファースト」な政策に関してだ。
ダリオ氏は自身のリンクトインにて、「全体にとってよいことか、それとも一部にとってよいことか、また調和か、衝突かという選択を迫られるとき、トランプ大統領は一部の利益を、そして衝突を選ぶ傾向が強い。
トランプ氏が協調ではなく衝突に向かう様子を見れば見るほど、彼が大統領という自らの職を傷つける状況と、私たちの多くが受ける影響に私はますます不安を覚える」とコメントした。
今回ダリオ氏がこのようにコメントした直接のきっかけは、トランプ大統領がパリ協定から離脱する方針を決めたことだ。200カ国以上に広がっている地球温暖化対策、化石燃料使用抑制の枠組みにアメリカがNOを突きつけたことが、衝突の最新例だとした。
トランプ大統領が先日解任したコミー元FBI長官は、ダリオ氏のヘッジファンド、ブリッジウォーターの法律顧問をかつて務めていた。ダリオ氏はコミー氏について「原理・原則が希薄な状況でも、確固たる信念を持って行動できる人物」だと主張していた。
ダリオ氏はトランプ大統領の「アメリカファースト」な貿易保護、移民に対する政策は、まるで1930年代に行われていた、大衆受けばかりを狙っていた政策を思い起こさせると言っている。
「批判」は「期待」の裏返しでもある
このようにダリオ氏は、トランプ大統領に対し批判的ではあるが、実は彼への支持自体は変わらずに続けている様子が感じられる。
トランプ政権の政策そのものに対しては財政を改善し、有益な構造改革がなされる可能性は高いとし、変わらず期待をしている。
かつて「アメリカ経済は破産寸前の危機的状況にある」という結論を下し、その危機を脱するべく当時は様々な非常識とも思えた手立てを打ち、リーマン・ショックを+12%で乗り切ったダリオ氏も、強い関心があるのはアメリカがどう復活するかだ。
ダリオ氏もトランプ大統領と同じニューヨークの出身であり「世界一の国アメリカ」の誇りもある。
「強いアメリカの復活」のために一切のブレがないトランプ大統領の政策を深いところで強く支持している。
だからこそ、誇り高い国の最高権力者であるアメリカ合衆国大統領が、蔑まれるような行いをしてほしくない、その思いがあるのだろう。
加えて、ヘッジファンドを率いる者として「アメリカファースト」の考え、行動が世界全体に与える影響も考える必要がある。アメリカファーストが行き過ぎた結果、世界経済の動きを悪くする、世界経済に対してマイナスな力が働くようなことがあってはならない。そのジレンマも抱えている。
トランプ大統領就任直後にダリオ氏が言っていた「新しい大統領とそのスタッフが新たな4年間を面白いものにするのと同時に、我々全員を気が抜けない状態に置くことはほぼ間違いない」は、早くも実現してしまったわけであるが、
トランプ氏の政策も、それによる世界経済への影響も、またその影響を受けるダリオ氏のヘッジファンドの運用成績にも、注目が集まる。