技術の進歩に伴い大きく発展し、その発展とともに「人間の仕事を次々に奪っていくのではないか?」と脅威の対象にもなっている人工知能(AI)。
金融、投資の部門でもAIの導入が進んでいる。
巨大ヘッジファンド、ツーシグマ創業者の個人資産を運用していたリシ・ガンティ氏はブルームバーグのインタビューで語った。
「アルゴリズムがわれわれの職を奪おうとしている。アルゴリズムは電力のみで読むことも処理することもでき、光が人間の目に届く頃にはもう取引が完了している」
ガンティ氏は毎年ヘッジファンドの資産の2~7%程度が、人間からコンピューター運用に移っていくと考えている。
「日本人の9割は投資で損をしている」といわれている。日本人がまともな投資に関する教育を受けていないから、というのが金融、投資関係の専門家の共通の見解であるが、日本人に顕著な「みんながやっているから自分も」という思考回路が、損をする原因であるとも言える。
投資の大原則は「人が買わない(安い)ときに買い、人が買いたい(高い)ときに売る」である。
「みんなが買わないなら買わない、みんなが買っているなら買う」では、一番高いときに買い、一番安いときに売ることになってしまう。最も損をするパターンだ。
投資を成功させるとは「いかに人と違う行動をとれるか」多くの人が買おうとしても買わない、むしろ売る、大多数が「もう値上がりする見込みはない」と考えているものを買うことが必要になる。
それは言い換えれば「投資とは人間である自分との戦い」とも言える。
AIは、機械の力で人間だからこその過ちを犯さない、合理的な判断で投資を行えるものと期待された。技術の進歩でどんどん運用もAIに置き換わり、進歩の結果、100%勝てる投資も実現するのではないか? 投資家の希望を一身に背負った。
だが残念ながら、希望は失望に変わった。AIを使用する12のヘッジファンドで構成されているユーリカヘッジAIヘッジファンドの指数は、2013年以降、ヘッジファンド総合の指数を上回ってはいるものの、S&P500種株価指数のリターンには及ばない。
運用にコンピューターを活用しているいくつものヘッジファンドも、すべてをAIに委ねることはできないと結論付けた。
306億ドル(約3兆4000億円)を運用するウィントンは20年にわたって取引にアルゴリズムを用いてきたが、今でも重大な決定はやはり人間が下す必要があると顧客に説明している。
140億ドル規模のCQSを率いるマイケル・ヒンツ氏は、コンピューターは市場の異常を見つけ出すことはできるが、答えを出してもらう役割はほとんどこなせないと話す。
ワイス・マルチストラテジー・アドバイザーズ(運用資産17億ドル)の投資責任者ジョーディ・ビサー氏は、パターンを読み取ってバラバラの点であるデータをつなぎ合わせる直感力は、まだ人間のほうが上だと言う。
ダブルライン・キャピタルのCEO、ジェフリー・ガンドラック氏も機械が金融の世界を牛耳ることはなく、人間が勝つとの見方を示した。
ウィントンは最新の顧客宛ての書簡で「現代のコンピューターは非常に強力だが、人間をまったく使わないのは勧められないし、不可能だ」と述べている。ヒンツ氏は、ベンチマークを上回るリターンを生み出すには、テクノロジーと人間の洞察力や想像力を組み合わせるのがよいと考える。「コンピューターモデルはよい出発点だが、必ずしもよい終点ではない」と述べた。
先ほど「投資とは人間である自分との戦い」と言ったように、ビサー氏も「コンピューターの良いところは感情がない点だ」とそれを認める一方で「感情がないのは悪いところでもある。人間のセンチメントを感じ取ることができない」と語っている。
人の感情があるからこそ市場には動きが生じ、市場で勝つためにはその感情も読み取る必要があるのだ。
コンピューターが人間よりも優れているところはある。そのなかでコンピューターにできない仕事をするためには、何をしたらよいか。先ほどのガンドラック氏のこの問いに対するアドバイスは非常にシンプルだ。「一生懸命努力すればいい」。