全国の国税局が今年6月までの1年間に実施した所得税の税務調査で、富裕層の申告漏れが総額441億円に上ったと、国税庁が発表した。
申告漏れは富裕層を対象とした調査4188件の8割に当たる3406件で見つかり、追徴税額は127億円に上っている。
富裕層対象の申告漏れは昨年から増加しており、昨年1年間の申告漏れは516億円となった。国税庁は増加の理由として「富裕層調査の専門チーム設置の効果」などを挙げている。
申告漏れ総額については昨年と大きな変化はなく、また1件当たりの申告漏れ額は、調査全体の平均が918万円だったのに対し、富裕層は1054万円と、とりわけ富裕層だから大きくなっているわけではない。
差が出ているのは富裕層の海外取引を利用したケースで、この分野では2576万円と高額になっている。
「富裕層の海外取引」とは、具体的に言うと海外のリゾートマンション購入に関する点だ。「申告漏れ」なので、あくまでも脱税を意図したものではないとされる(重加算税の対象になる悪質なものもあるが)。
海外取引では、海外とのやりとりは主に英語が使われるうえ、国により商慣習が異なったりする結果、調査官には「書類不備」と判断されるケースがとても多い。間に入った会社がしっかりやっているところだとしても、担当者が実務経験の浅い人だったりした結果、書類に漏れ・抜けが生じることはよくある。
専門チームを組んでいるくらいの国税庁は、その点を厳しく突いてくる。その結果、税務調査で「申告漏れ」と判断されるケースが多発しているのだ。
『富裕層のバレない脱税』(NHK出版)という本では、タイトルの通り「富裕層のバレない脱税」の方法として、所有者が誰かを曖昧にするような海外の不動産や金融商品の取引を使った方法が紹介されている。
現実的に考えて、そのような曖昧な取引は、一発で税務調査の対象となる。
所在が曖昧な、当の本人さえよくわからなくなるようなものは、専門チームを組んでいるプロの調査官の目がすぐに光り、指摘され、きちんと答えられなければ否認されるだけだ。
富裕層を対象とした税務調査は秋の9月から11月に行われることが多い。
海外の会社は9月が期のスタートのことが多く、合わせてお金の動きが活発になるからだ。
「申告漏れ」というと脱税を企図したかのような印象を与えるが、納税者と徴収者の間で、課税の対象になるかどうかの解釈が分かれた結果に過ぎない。
対応をきちんと行えば、税務調査もその結果も、恐れることは何もない。