ボーディングスクールで伸びる子、伸びない子

本当に優秀な子の進学先の変化

 子どもの進学先として、ボーディングスクールを考える富裕層は多い。ゆかしメディアが取材したところ、ボーディングスクールに通って伸びる子、伸びない子に傾向が分かれることがわかった。

 現在、 優秀な子どもの進路もだいぶ変化が見られるという。かつて、開成高校でトップレベルの成績を残している生徒は、東京大学などの一流大学に進学していた。
 その次の、トップレベルではない生徒たちが「東大に入れそうにないから海外に行く」というようにアメリカの大学を目指し、その数はせいぜい1ケタ程度だったそうだが、今や時代は変わった。

 これまでであれば日本の一流大学に進学していた開成のトップ層が、海外の大学を選ぶようになったのだ。
 グローバル化が進み、また日本の教育に期待できないということで、海外の学校を視野に入れる子どもが増えている。

まず、「ボーディングスクール」とは何か?

「海外に出るなら早いうちから」と選ばれるのが、「ボーディングスクール」だ。ボーディングスクールとは「海外にある全寮制の私立学校」のことを言う。学生だけでなく、教師も同じキャンパス内で寝食を共にする。
 映画『ハリー・ポッター』の世界と考えるとわかりやすい。


ボーディングスクールは郊外の高級住宅地ゾーンに位置する

 ボーディングスクールは、スイスのものが有名だ。1880年に創立された、スイス最古のボーディングスクールの1つといわれるのが、「ル・ロゼ(Le Rosey)」で、世界中の王侯貴族や富裕層の子弟が集まる。卒業生はモナコ公国大公レーニエ3世やベルギー国王、イギリス王室やデンマーク王室関係者、ジョン・レノンの息子など、そうそうたる顔ぶれだ。有名なところが10校ほど存在する。

 ボーディングスクールはアメリカにもあり、その数はスイスよりもはるかに多い。スイスの学校が完全に「上流階級のための学校」であるのに対し、アメリカのそれは「進学校」というイメージで、世界中から優秀な学生が幅広く集まり、卒業生はハーバードなどの有名大学に進学していく。

日本人はどのくらい通っているのか? 何歳くらいから?

 スイスのボーディングスクールにも日本人の学生は通っている。少なくて1人の学校から数十人が通うところも合わせて、その数は150人ほどだ。

 スイスに比べると、アメリカのボーディングスクールに通う日本人のほうが数は多い。

 ボーディングスクールには、何歳くらいから通い始めるのがよいのか、日本人学生のボーディングスクール進学をサポートしているTriple Alpha代表の三原卓也氏によると「早すぎても効果は低い」という。
「外国語教育は小さいうちに」もはや定説のようになっているが、日本語の基礎が出来上がる前にあまり日本語から離れた環境に身を置きすぎても、学習効果は上がらないとされる。

 ボーディングスクールの学生受け入れは中学3年生から高校3年生まで行われていて、その間、遅くとも高校1年までに行くのがよいという。

 ボーディングスクールの授業はかなりレベルが高い。しかも英語で行われる。よほど準備をしていったとしても、環境に慣れる、授業についていけるレベルの英語力を習得するには1年くらいかかるという。
 高校2年生以上では、慣れた頃には卒業することになる。

 なお、求められる英語力は、名門校はTOEFLで100点以上が一般的だ。
 そこまで達していなくとも、中学3年生のときに入学したならば、1年もその環境にいれば翌年には授業や日常会話には困らないレベルの英語力は自然につくという。

学校そのものの日本との違い

 ボーディングスクールの特徴は「全寮制」であることだが、全寮制の学校は日本にもある。海外のボーディングスクールとのもっとも大きな違いは「自分で入る学年を選べる」ことだ。
 たとえば、日本の中学3年に相当する学年に入学したとして、翌年に高校1年に相当する学年に進学すると決まっているわけではない。
 成績がよくなかった、もっと学びたいと思えば、自分でもう一度同じ学年を選ぶことができる。

 ボーディングスクールには「入学する」というより「契約する」と言ったほうがよい。そして学校との契約は1年ごとだ。日本では高校に入学するとは、3年後に卒業する予定であることを意味する。だがボーディングスクールは必ずしもそうとは限らない。3年で卒業する学生が大半だが、同じ学年を繰り返したり、1年終えた後にほかのボーディングスクールに転校する学生もいる。PG(Post Graduate)制度と言い、高校3年生を卒業後、大学入学前にもう1年ボーディングスクールに残れる制度も存在するのだ。

 いきなりレベルの高いボーディングスクールに入学はハードルが高いので、まずは別のボーディングスクールで英語に慣れたあとで、学びたいことのあるところへ移ることも珍しくない。
 このあたりの考え方は、日本のそれと大きく異なると言えるだろう。

教育内容に関して、日本との違い

 ボーディングスクールで求められるのは「文武両道」だ。授業も、課外活動も、どれも一生懸命に行うことが求められる。
日本で美徳とされるような勉強だけ、部活動だけといった「この道一筋」はあまり評価されない。

 ボーディングスクールは、リーダーを養成するための学校だ。リーダーに必要な素養として、タイムマネジメントがある。うまく時間を配分して、いろいろなことをバランスよく、それぞれにしっかり注力する能力を、学生は学校生活を通じて身につけていく。

 日本の学生がボーディングスクールで迷うこともあるのはこの点だ。マルチにバランスよく行っていくことが重要ゆえ、それに力を入れすぎると「これをやりたい」を持っていない生徒は目標を失い、モチベーションを下げてしまうこともある。

 その他大きく日本の学校と異なるのが、ディスカッションの授業の多さだ。「自分はどう考えるか」を伝えるカリキュラムがたくさんある。学生には自主性が求められ、自分の意見を常に言うことを義務付けられる。


ボーディングスクールの授業風景

 この考えは、たとえば理科の実験などでも同じだ。実験というと日本の授業では言われたとおりに黙々と行うもの、というイメージだが、ボーディングスクールでは「どのような実験を行うのがよいのか?」といったことを議論し、意見をぶつけながら進めていく。

 そのような環境ゆえ、ボーディングスクールの教師はほぼ全員が「日本人はシャイだ」という評価をする。最近は変わってきたところもあるが、日本の学校ではディスカッションなどがそう盛んではないゆえ、いきなりできるものではなく、教師にしてみれば日本人学生がシャイに見えるのだろう。

 だが、最初はそのような評価を受けていた日本人学生も、2、3年もボーディングスクールに通うことで、自分の意見をしっかり言い、リーダーシップを発揮するように成長していくという。

 ほかにも学生は、家族を大切にするようになるという。全寮制、ましてや外国で家族と離れて暮らすことで、そのありがたみもわかる。
「子どもをボーディングスクールに入れて一番よかったと思ったのは、『ありがとう』を言える子に育ってくれたこと」
 ある保護者は語る。

 ボーディングスクールの卒業生は、そのまま海外の有名大学に進学するほか、日本で進学することもある。ボーディングスクールは日本の学校に比べ「人生を長いスパンでどう考えるか」を学生に問う部分が強いため、明確な目的を持って進学先を選ぶ傾向が強い。

危険はないのか? 気になる学費は?

 ボーディングスクールのある場所は、スイスやアメリカなど外国である。子どもが犯罪に巻き込まれたりといったことも気になるところだが、そのあたりはそう心配しなくてよいという。
 ボーディングスクールの所在地は、アメリカ郊外の高級住宅地などのあるエリアで、セキュリティレベルはかなり高い。低所得者や犯罪者がうろついているようなことはない。

 どこの学校も厳格なルールを設けていて、学生が他人に危害を加えるようなことに対しては厳しい罰が与えられる。
 ルール破りを連発するような学生には退学などの処分が下されることもある。

 そこは西洋の契約社会、学生にも厳格なルールが課されるのだ。


寮生活の様子
 ボーディングスクールの費用について。
 スイスのボーディングスクールは年間1000万円以上かかることも珍しくない。授業料に加えて、寮の費用、その他渡航費用等も発生する。
アメリカのボーディングスクールは授業料、寮費等が年間5万ドル、500万~600万円程度だ。

 アメリカのボーディングスクールは親の年収、経済環境等に応じて様々な学費補助制度があるところが多い。

 特に多くのボーディングスクールが、学内のダイバーシティを高めたい意向があり、日本人学生を求めている。そのためさまざまな優遇を設けているところが多いのだ。毎年9月、10月頃には、世界中のボーディングスクールが日本で説明会を開いたりしている。

 現在、保護者のボーディングスクールへの関心も高まっており、先のTriple Alphaへの問い合わせの年齢層も下がっているという。
 もっとも多い問い合わせの年齢は小学校高学年だ。

 ボーディングスクールとはどのようなところかを、お伝えしてきた。日本の学校とはまったく異なる環境ゆえ、そこで伸びる子もいれば、日本の教育機関のほうが向いている子もいる。
 小学校高学年くらいから親はボーディングスクール入学の具体的な検討に入るように、資金、学習面でも長期計画で取り組む必要がある。

 どんな子が伸びるのか、自身もボーディングスクールの卒業生でもあるTriple Alphaの三原氏によると、「ボーディングスクールで学びたい」と本人に強い意欲がある、そのような子だという。

 完全に親の意向だけでボーディングスクールに通うようになった、本人の意思がない、逃げで海外進学を目指すような事態は、日本の学校よりも厳しい環境だけに苦しいものがある。
「日本の学校に行きたくないから海外へ」という考えもあるだろう。向き不向きで、海外のほうが向いているという子もいる。
 そのときも、憧れでも夢でもよいので、「ボーディングスクールに行きたい」というモチベーションを、子ども自身が抱けることが大切だ。

 スイスのボーディングスクールを卒業し、英国の名門大学に進学した学生は、「ハリー・ポッターのような寮生活に憧れた」のが最初の動機だったという。

 動機はそこまで具体的でなくてよい。入学後、ボーディングスクールでの生活をポジティブに送ることができれば、具体的な将来のビジョンは、環境が考えさせてくれる。

 子どもに具体的なイメージを持ってもらうために、実際に学校やキャンパスを見てもらったりといったことは欠かせない。
 そして、子ども本人が「この学校に通いたい」と思うようになること。
 大切なのはそこの「気持ち」の部分だという。

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