SBIホールディングスが2018年度中に、ICO(イニシャル・コイン・オファリング)で500億円規模の調達を行うと、日刊工業新聞が報じた。
傘下の仮想通貨関連事業の中間持ち株会社を通じての実施となり、実現すれば国内最大級の規模となる。
今年に入ってからの暴落、コインチェックによる仮想通貨「NEM」の流出事件などで、仮想通貨には逆風が吹いている。
コインチェックに対してユーザーから集団提訴が行われるという報道もあり、「仮想通貨とは危ないもの」というイメージを強めている。
日銀総裁の再任が決定的な黒田東彦氏は仮想通貨を「単なる投資や投機の対象」「金融政策に影響があるものではない」などと語った。13日には衆院予算委員会で「仮想資産という言い方に変えるべきだともいわれている」と語り、通貨ではないと考えていることを明らかにした。
こうした論調はほかの主要中央銀行トップも同様で、「私だったら通貨とは呼ばない」「私だったら買うかは慎重に考える」と語るのは欧州中央銀行(ECB)のマリオ・ドラギ総裁。大学生の質問に対しこう答えた。ビットコインの価格変動の大きさを挙げ、決済に向かないことを理由として述べた。
その発言はどのようなメリットをもたらすか?
仮想通貨に関しては、発言はすべて「ポジショントーク」だと思ったほうがよい。立場が変われば仮想通貨に対する接し方も変わる。そして仮想通貨が普及してベネフィットのある人は好意的な発言をし、仮想通貨普及で損が生まれる人は手厳しいことを述べる。後者の立場には「仮想通貨はなくなる」とまで語る人もいる。
そのような背景を踏まえて、状況を今一度整理しよう。
500億円の調達を行うSBIの北尾氏は、仮想通貨の送金コストが低い、決済などの処理速度も速いというユーザビリティの高さに注目し、現在の膨大な維持費用が発生している銀行の送金システムにとって代わると予想し、また期待している。
実際に普及するためのアクションを起こしているほか、ずさんな管理で仮想通貨を流出させ、仮想通貨の信用を落としたコインチェックには「カス中のカス」と手厳しい。
黒田氏やドラギ氏のような中央銀行の総裁が仮想通貨に懐疑的なのは「現状では通貨よりも投資、投機の対象として盛り上がっていること」だ。通貨として機能しない以上、法定通貨のドンとしてそれらを評価することはできない。
ただし、既存の金融のトップの人たちも、仮想通貨を支える技術については評価している。JPモルガンのジェイミー・ダイモンCEOはかつて仮想通貨に対して批判的で、ビットコインを「詐欺」と断言、「自社の社員が扱ったら解雇する」とまで言っていたが、仮想通貨の土台となる技術であるブロックチェーンについては評価し、「偽物ではない。この技術はデジタルの円やドルを誕生させることが可能だ」と語っている。
仮想通貨を支えるブロックチェーン技術については、総務省も積極的だ。同省は現在を取り巻く状況を「第4次産業革命」であるとし、現在進んでいる技術革新をあらゆる産業や社会生活に取り入れることを目指している。
「ブロックチェーン技術によるデジタル社会の変革は、我が国が早急に取り組むべき課題の一つである」(総務省情報通信審議会 情報通信政策部会 IoT政策委員会)という結論が下されている。
誤解している人も多いので、改めて整理すると、
・ブロックチェーン技術は極めてセキュリティがしっかりしていて、安全性が高い。コインチェックでNEMが流出したのは、同社の安全管理がずさんだったから。集団訴訟が進められているのはその点に関してでもある
・総務省、すなわち国はブロックチェーン技術を取り入れていくべきと考え、実際に様々な手立てを起こしている
・ブロックチェーンが可能にしたものの1つ、仮想通貨に関しては、可能性に群がる人により値段がつり上がっているのが現状。そのため現時点では支払い通貨として機能する段階になく、法定通貨を扱う人たちは現時点では距離を置いている
SBIの北尾氏は現在の値上がりは投機的な部分が大きいとしつつ、今年はブロックチェーンを活用するための制度づくりが進み、その分野に期待しての買いが入り、価格を決めていくと考えている。
実際の決済手段として使われるようになっていくためには、価格変動が小さくなる必要がある。
そのように環境が整ったとき、距離を置いている人たちも仮想通貨に対する考え方を変え、新たな見解を示すことだろう。
投資家は常に状況を整理し、どのような関わり方をするか、そこをしっかり考えておく必要がある。