ヘッジファンドの雄、Wintonの戦略に変化

今、AI運用やロボアドバイザーなどが個人投資家の間で注目を集めている。
新たなテクノロジーと見られがちなアルゴリズム運用だが、ヘッジファンド運用会社は1990年代より多額の研究開発費を投じて同分野での知見を蓄積してきた。

その代表例がWinton Futures Fundである。
デイビッド・ハーディングが1997年に同社を設立して以来、綿密な統計的研究に基づいた運用を行い、その華々しいリターンから多くの機関投資家や富裕層投資家の支持を集めた著名ファンドである。日本で投資信託として販売されたこともあることから、ご存じの読者の方も多いだろう。

そのWinton Futures Fundが2018年に入り、そのファンド名を「Winton Fund」へと変更した。20年以上投資の雄として君臨した同ファンドが、その名前から「Future(先物)」の文字を外すことになったのだろうか。

Winton Fundの投資家向けレターから読み取っていきたい。

そもそもWinton Fundは、長年にわたって蓄積したビッグデータを元に相場のトレンドを追いかける「トレンドフォロー戦略」をその主軸に据えていた。
サブプライムショックのあった2007年には17.97%の年間リターン、リーマンショックのあった翌年も20.99%のプラスとなるなど、上げ相場であっても下げ相場であっても相場にトレンドさえ出ればリターンが出ることから、大変な人気を集めたことは記憶に新しい。

しかし、リーマンショック後の異常な低金利と各国の実施した量的緩和政策によって事態は徐々に変わっていく。本来であれば長期にわたり続くはずだった下落トレンドが各国政府の協調によって介入が為され、長く続かないようになっていったのだ。

収益の源であった「トレンド」を、各国の足並みをそろえた金融政策によって捻じ曲げられてしまってからは受難の5年間となった。2009年~2013年の運用実績は以下の通りである。



※いずれもトランシェB(米ドル建て)の実績

着実に資産は殖えているのは流石と言ったところだが、年単位でのマイナスが見られるようになってしまっている。

この事態を打開すべく、2014年よりWinton社は多額の費用を投下して独自のデータ収集を拡大していく。その結果、同社の導いた結論は従来の「トレンドフォロー戦略」だけではなく「複数戦略を組み合わせての運用」であった。


ウィントンファンドのファクトシートより引用

2016年より、収集したデータに基づき現物株式戦略を導入、2017年には現物債券戦略や株式イベント戦略を導入するなど様々な環境に対応する為の準備を進めていった。資産全体で取るリスクを減らしつつ、安定的に収益をあげる方向へと徐々にシフトしつつある。これは同社の運用残高が3兆円程まで膨らんだことなども影響しているとみられる。

年金基金などの機関投資家の資金が運用資産の中心を占めるようになると、不可逆的に「損失の幅をコントロールすること」への期待が高まっていくためである。

そういった努力もあり、その後4年間は以下のように推移している。


資産全体のぶれ幅(ボラティリティ)を低減させつつリターンを出せるようになりつつある。やはり膨らんだ3兆円の運用残高を複数戦略に分散することで下落幅をコントロールしつつリターンを目指す方針と言えそうだ。

元々「トレンドフォロー戦略」1本で運用していた同ファンドも現在ではその比率を53%程まで低減させており、今後は35%程までその比率をさらに下げていく方針を明らかにしている。
先物中心の運用から株式や債券の現物投資の比率を徐々に高めていくことで、相関性を下げた運用を行っていこうとする運用会社の姿勢があらわれていると言えるだろう。


ウィントンのファクトシートよりゆかしメディアが作成

この傾向は何もWinton社に限った話ではない。
マルチストラテジー(複数)戦略での運用を行うスイス籍のヘッジファンドの運用レポートに目をやると、彼らもまた2008年まではほぼすべてをベットしていた「トレンドフォロー戦略」の比率を40%程まで低減させている。
安定的な運用を志向するファンドが「トレンドフォロー戦略」1本での運用ではなく、マルチストラテジー戦略で運用を行っていくことは、新たなスタンダードになりつつあると言えるかもしれない。

ヘッジファンド業界の中で、ひとつの時代を創った「トレンドフォロー戦略」とその代表格であるWinton Futures Fund。

マルチストラテジー戦略での安定運用に舵を切った同ファンドの今後の推移に注目していきたい。

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