ヘッジファンド業界は日々多額の研究開発費が投下され、著名大学の博士号を
持つような人間たちがチームを組み、文字通り「寝る間を惜しんで」顧客の資
産増大に取り組んでいる。
2019年現在、徐々に女性ヘッジファンドマネージャーの活躍も見られるように
なってきたが、そのパイオニアとも言える存在がJamie Zimmerman(ジェイミー
・ジンマーマン)氏だ。
まだヘッジファンドが現在ほど市民権を得ていなかった2000年、彼女は
Litespeed Management LLCを創業した。当初の運用残高は$4 million(約
4.4億円)程であったと言う。
2012年になっても資産運用業界における要職の97%は男性が占めており、
(trade publication CIO.調べ)2000年頃に女性が運用業界で活躍する為
のチャンスはが更に少なかったであろうことは想像に難くない。
※写真はLitespeed Management LLCの所在地ニューヨーク。
彼女が得意とした運用スタイルは、企業の合併や突発的なイベントに
乗じてリターンを出すイベントドリブン戦略と呼ばれるものだった。
2013年までのリターンは華々しく、レバレッジを使うことなく年平均
で11.7%のリターンを記録。
リーマンショックも乗り越えた同ファンドの成績は目を見張るものがあり、
2014年には運用残高も$3.4Billion(約3,740億円)まで増加。
後進の女性ヘッジファンドマネージャーの憧れとして語られることも多い
著名運用者となっていった。
そんなLitespeed Management LLCの運用ファンドの残高にここ数年で
異変が起きていると言う。Bloombergの記事からその理由を探った。
Bloombergによると一時は$3.4Billion(約3,740億円)まで増加した同
ファンドの残高がここ5年間で$300 million(約330億円)まで資金の
流出が進んでいると言う。
2015年ROUTERの記事によるときっかけは2015年に9%のマイナスリター
ンを記録したことだと言う。大口投資家の解約が相次ぎ、残高を$1.9
Billion(約2,090億円)まで減らすと、イベントドリブン全体の不調に
後押しされる形で、大口の機関投資家からの解約に歯止めがかからなくなったのだ。
とは言え、成績がその後も優れなかったわけではない。2018年には9
月時点で+5.9%のリターンを記録していたことを明かしており、シス
テマティックな運用やCATボンド系の運用などが苦戦していたことを
鑑みると、分散投資先としては非常に有用だったようにも映る。
では、なぜ残高の減少が進行してしまったのだろうか。
その理由はファンド内部にあったようだ。2014~2015年頃にはヘル
スケア業界のM&Aなどが全盛の時代となっており、企業の合併は200
0年以降同社の主たる投資対象、収益機会となっていた。
バイオ・ヘルスケア領域の合併は動く金額も非常に大きく、同社の
膨らんだ運用残高の投下先としても魅力的だったことが推察される。
この流れが2016年頃から変わり始めたようで、同年の4月にファイザ
ーとアラガンが合併を断念したことで、一連のバイオ・ヘルスケア
領域の再編が下火となった。これによって同社の収益の源である
大規模なM&A自体も数を急速に減らしていくこととなった。
ここからJamie Zimmerman(ジェイミー・ジンマーマン)氏は新興産業
である仮想通貨業界へと、その投資先を大きく変更していき、今日に
至るまでブロックチェーン、クリプトカレンシー界隈の企業への
投資は、同社のポートフォリオの中核を占めているとのことだ。
多くの機関投資家は、2000年~2014年頃までの実績Litespeed Management
LLCの卓越したM&Aへの知見などを高く評価して投資を行っており、それ
が「ブロックチェーン、クリプトカレンシー界隈の企業への投資」に
通用するか、という疑問が出た時に「No」という回答になったのだろう。
ファンドマネージャーの変更やチームが再編されることで運用姿勢に
変化が生まれることを「スタイルドリフト」と呼ぶが、今回のケースでは
ファンドマネージャーはそのままに、運用スタイルの変更のみが行われたことになる。
現時点では機関投資家達からは敬遠されているようだが、4.4億円の
預かりを3,740億円まで増加させたその手腕が本物であれば、数年後、
残高数兆円単位のモンスターファンドとなっているかもしれない。
ヘッジファンド業界における女性運用者の草分け的存在である彼女の
今後に注目していきたい。
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