世界最大のヘッジファンド、ブリッジウォーターの創設者、レイ・ダリオ氏が今月初めリンクトイン(SNS)で「中国への資本流入制限の脅威と係争中の武力紛争:古典的な危険な旅路における必然的な帰結か?1935年~45年に類似」というタイトルのエッセーを掲載した。
その中では「我々は人生において経験したことはないが、歴史を通じて知っている、危険な旅に出ている可能性がある」と述べている。
愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ
レイ・ダリオ氏は、鉄血宰相と呼ばれたビスマルクの「愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ」という格言と同じく、自分の経験だけではなく、他社の経験(歴史)にまで範囲を広げて学ぶべきと述べている。
エッセーでは以下のように続く
「現在は1930年末以降、最大規模の富と政治の格差が存在し、左派ポピュリストと右派ポピュリストの間に葛藤と対立が生じている。歴史と論理が道しるべになれば、貧富の差や左派のポピュリズム、右派のポピュリズムがさらに対立的となり、その結果、経済の効率的な運営と政府の効率的な運営が損なわれるのではないかと心配するのも無理はない。
歴史が示してきたように、論理(ロジック)が示唆するところによれば、紛争が大きくなると、a) 政治指導者による法と譲歩の術の両方に対する尊重が減少し、b) 相対的な権力を試すことが増加し、これらの行為が意図した以上の権力を獲得し利用するために「非常時の権限」の使用が増加する。今回の米国の選挙は、1930年の極端なファシストと共産主義の衝突に近づく、私たちが生きてきた中で最大のイデオロギーの衝突になる可能性が高い。選挙後には、市場や経済に大きな影響を与える紛争、税法の改正、富の再分配がさらに増える可能性が高い。
また現在の世界の強国(米国)に対抗する勢力(中国)が台頭してきており、様々な問題をめぐって両者の間にさらなる対立が生じる可能性がある。歴史は、このような状況が、貿易戦争、資本戦争、技術戦争、地政学的戦争の4つの形態に代表される戦争のリスク増大につながっていることを示している。」
現在の環境は、国内の貧富・イデオロギー的な対立が、国家間の対立にも影響をしており、一部報道で出たようにアメリカに上場している中国株の締め出しや、インデックスからの排除が実際に行われるようなことがあれば、物、資本の取引が止まり、新冷戦というのがふさわしい状況になりかねない。核爆弾という抑止力があることを除けば、第二次世界大戦前夜に近い環境ともとらえることができる。
資本主義の自壊
レイ・ダリオ氏はこれより以前に発表したエッセーにおいて「企業は、経営者を豊かにするため、労働者の代わりとなる省力化技術を開発している。持てる者の子供たちに比べ、持たざる者の子供たちは、様々な環境において苦境に立たされている。不平等がポピュリズムとイデオロギーの過激化に拍車をかけている。それが資本主義の放棄や未改善のままの放置につながることを危惧している。」と述べており、今回のレポートともに貧富の差の拡大は資本主義の自壊につながると強い懸念を示している。
経済学者ミンスキー氏は資本主義は不安定性を内在しており、その要因は金融から持たされると説明した。それに対しレイ・ダリオ氏は資本主義は不安定性について、その要因は貧富の差の拡大にも大きな一因があるあるとみているようだ。
不平等解消のための富裕層の行動
不平等に対して、一部の富裕層は行動を始めている。
最近の出来事でいうと、2019年5月19日ヘッジファンドビスタ・エクイティ・パートナーズの創設者ロバート・スミス氏はジョージア州アトランタにあるモアハウス大学の卒業式のスピーチで、卒業生約400人の学生ローン約44億円分を全額肩代わりことを発表し、喝采を浴びた。
また2019年6月24日にクオンタムファンドのジョージソロス氏やフェイスブックの共同創設者のクリス・ヒューズ氏等、匿名の1人を含む19人の個人が富裕層課税への請願書を公開した。民主党のウォーレン議員等により超富裕層への課税は支持され、20年の大統領選の焦点の一つとなっている。
経済学者ガルブレイズ氏は「ザ・グッド・ソサエティ」において「裕福な人々の目標とするものがいつのまにか世論になり、それに裏付けられるような報道が毎日メディアによって行われている。合衆国においては共和党は明らかに裕福な人々の側に立っているが、民主党ないしそのメンバーの多くが、その影響力と富の力に引き付けられている。その結果、豊かで恵まれた人々の欲望や欲求に沿った政策や行動をとる、二大政党制が誕生しているのである」と述べている。
ガルブレイズ氏の言う通りならば、富裕層の目標のなかに、自然と自他的な行動が含まれ、ロバート・スミス氏のような行動がより多くメディアに取り上げられれば、現在の貧富の格差は自然と解消し、資本主義は一つの改善を見るかもしれない。
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