大手運用会社の相場観【5月版】

 日本や欧米では新型コロナウイルスの影響も一服し、経済活動の再開に向けて期待が高まっている。二番底を待っていて、4月からの上昇相場に乗り遅れた方も多いのではないだろうか。失業率など指標は軒並み悪い結果だが、景気悪化の底が見えたことが安心感につながっているようだ。短期での株価予想は本当に難しい。
 
 ヘッジファンド運用も行うアメリカの大手資産運用会社、フランクリン・テンプルトンが、現状をふまえて「どこに投資するべきか」を資産別、国別に発表した。大手運用会社の相場観をご紹介する。

目次

資産別の見通し(大分類)

①相場全体 中立

 世界経済は今後数か月で急激に縮小するが、その後は長期間の穏やかなインフレが起こると予想している。実体経済の悪化と、世界的な金融緩和の影響が不透明なため中立という評価になった。

②株式 やや強気

 これも、強弱どちらも材料がある。マイナス要因としては企業収益の悪化だ。景気回復と収益率の改善には時間がかかると見ている。また、それに伴って設備投資の減少も懸念事項だ。
 一方、プラス要因はボラティリティが上昇し流動性も緩和されているため、収益機会が多いことだ。長期的に見たら景気回復は確実で、差し引きすると若干の強気になった。

③債券 やや弱気

 JPモルガンの資料によると3月末時点で米国ハイイールド債の上乗せ金利は8.75%とスプレッドはかなり拡大しており、絶好の投資先に見える。しかし、成長が悪化し資金繰りが苦しくなると、一段のスプレッド拡大と債券価格下落の可能性もある。新興国の為替リスクも高く、若干の弱気という評価になった。

④オルタナティブ資産 中立

 オルタナティブ資産とは農産物や鉱物といった商品や不動産などのこと。実物資産としてインフレに強い特徴があるが、コロナショックにより減少した需要がすぐに戻るとは予想できない。ひとまず様子見という形になった。

⑤現金 やや強気

 現金の資産保全能力は魅力的で、株式はもちろんアメリカが政策金利をゼロにするなどあらゆる資産のボラティリティが高まっている中で重要な役割を果たすと見ている。

地域別の分類

■株式市場

①アメリカ やや強気

 コロナウイルスにより大きな影響を受けているにもかかわらずアメリカの成長性は高く、技術力を武器にGAFAを筆頭とした株価上昇が続いている。今後は割安度、大統領選挙、FRBの動向に市場の注目は移っていくと予想している。

②欧州(イギリス以外)やや弱気

 製造業の見通しは芳しくなく、マイナス金利の弊害も出てきている。株価も割高な水準であり収益見通しの回復がしばらく見込めないことから、投資判断を引き下げる結果になった。

③イギリス やや強気

 株価はかなり割安な水準であり、国内の政治的問題もある程度落ち着いたことからこの評価になった。EU離脱の影響や経済見通しはまだ不透明だが、割安感から買いが入りやすいとみている。

④日本 弱気

 世界に比べると割安だが、消費税増税とコロナウイルスのダブルパンチで企業の稼ぐ力は弱くなっている。他の投資対象と比べ一番弱気という評価であった。

⑤中国 中立

 中国については政府の財政策と経済見通しに注目するという結果になった。全人代では15兆円規模の国債を発行すると発表したが、経済成長率の目標を発表しないなど強弱入り混じる内容となった。バリュエーションの低さが魅力としている。

⑥新興国(中国以外) 中立

 世界的な暴落時には、新興国から資金が逃げることから新興国の下落幅は大きかった。短期的には不安定で下落することも考えられるが、ROE(自己資本利益率)も改善してきており、長期的にはポジティブな予測をしている。

■債券市場

①先進国国債 中立

 アメリカ、欧州、日本国債へは中立の評価になった。低金利環境は続き、債券価格の変動は少なくなるだろうという理由だ。

②投資適格債 やや強気

 業績の悪化によりデフォルトリスクが高まり、利回りは急上昇した。FRBの資金供給によりいったん落ち着いているが、まだボラティリティは高い。ヘッジファンドの収益機会は多そうだ。

③ハイイールド債 やや弱気

 格付けの低いハイイールド債は、一転してやや弱気という評価だ。FRBも250兆円の買い入れを発表してはいるが、まだデフォルト率は高い。短期的にはリスクが高いという判断だ。

④新興国国債 やや弱気

 新興国通貨はリスクオフ時に一気に売られるため変動が大きく、ブラジルレアルは年初来最大で30%以上下落した。まだ市場は不安定であり、為替リスクの高さから慎重な見方となった。

フランクリン・テンプルトン社のレッグ・メイソン社の買収について

 2020年2月18日付でフランクリン・テンプルトン社は米大手レッグ・メイソン社の買収を発表し、運用資産としては約 1 兆 5,000 億ドルの運用資産を抱える世界最大級の独立系資産運用会社となっている。

 今回の買収で機関投資家と個人投資家の預かり資産をバランスよく管理することで、経営の安定化と、共通のコスト削減により利益率の上昇が見込まれるとのことだ。

 近年インデックスファンドへの資金流入から、大手アクティブ運用会社は規模の拡大を進める傾向が明らかになってきている。

 また日本と異なり、利益相反関係の問題から米国の運用会社は、販売会社との独立性を重んじる傾向にある点も補記しておきたい。

 今後は単純なロングオンリーの運用ではなく、アセットアロケーションを重視した、ポートフォリオ管理を中心としたファンドや、空売りやレバレッジなどを使ったリキッドオルタナティブの分野にも力を入れてくると思われる。

おわりに

 やはりコロナショックの影響は大きく、不確実性も高まっているため業績や経済政策の効果を見通すのは大手運用会社やヘッジファンドでも難しいようだ。相場全体でも中立の評価と、少し様子を見たいというのが正直なところだろう。

 インデックスファンドは業績が悪化している銘柄も時価総額加重平均で購入する必要がある。これを改良しようとするエンハンスト・インデックスやスマートベータはリーマンショック後の上昇相場では、大きな違いを見せつけることには成功していない。しかし今回のような危機時に差が出れば、研究は一層進むと思われる。またこのような価格に歪みが生じている状況でこそアクティブファンドもファンドマネージャー手腕が問われるといえよう。

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