小沢問題で思い出すこと

 第174回「通常国会」が召集され始まりました。日本国憲法では「常会」と呼ばれる通常国会は最低でも150日の会期がありますので、6月まで開催されることになります。一般的に、政権の威信をかけて補正予算や来年度予算の年度内のスムースな成立を目指すことが、毎年最初に行われる為、それを「前半国会」と呼び、予算成立後に重要法案等を審議することを「後半国会」などと呼びます。

 今回の通常国会は、招集前から鳩山首相の「故人献金問題」に端を発した「政治とカネの問題」が、最高実力者とも目されている民主党小沢幹事長の問題に波及して大きな騒ぎとなる中で召集されました。招集前に、小沢氏の問題当時の秘書で資金関係を担当していた3人が逮捕され、その中には北海道十勝から選出された衆議院議員の石川氏も含まれていました。この小沢氏の問題は、マスコミでもかなりの報道がなされた為、小沢氏を擁護して検察の動きを批判する向きと、小沢氏の責任問題を取り上げる向きの2つの動きが、検察の捜査とは別に出て来ている状態です。

 この記事を書いている1月22日現在では、前日に鳩山氏が「石川議員が起訴されないことを望む」という、憲法三権分立の「行政の長」とは思えないような「トンデモ発言」をし、本日「あれは仮定の話に、仮定のこととして述べただけだ」と説明して、「発言は撤回しない」と報道されています(撤回したという報道もあり)。皆様もおわかりのように、警察・検察というところは、裁判所ではありませんので、行政の一機関です。鳩山氏の苛立ちも気持ちとしてはわからなくもありませんが、警察や検察の組織を辿って一番の上司を見てみると内閣総理大臣であることだけは間違いの無い事実です。鳩山氏によれば「捜査に介入はしない」とのことですので、そうであらば尚更、組織構成上驚くべきほど無知で筋の通らない発言であると考えざるを得ないでしょう。

 また、説明が長くなるので、語弊を恐れずに単純に申し上げれば、原則的に国会開設中に国会議員は逮捕をされません。だからこそ、自浄機能として国会で「議員辞職勧告」等が出来ることになっています。何故なら、間接民主政治として国民の負託を受けた代表者としての一票を持つ人間を生半に拘束して議決権を奪うことは出来ないからです。国会で逮捕されている議員の保釈を求める決議をすることも出来ます。

 そんなこんなの政治とカネの問題が冒頭から絡んでいる通常国会ですが、この時期に政権幹部のカネの問題が浮上するのは、それなりの理由があります。

 国会では色々な審議がされますが、予算委員会もしくは予算関連質問というのは、予算の使い道の議論がなされる訳ですから、極端に言えば、何の質問も出来るし、何の議題を上げても関連すると言えば関連することになるのです。野党としては舞台裏で騒ぐよりも、議会で表立って責任を追及するには、予算関係の審議というのはもってこいの場と言えるのです。現に、前回の臨時国会では民主党連立政権はそそくさと会期を短くして、予算審議を避けている傾向が見られました。一部報道では、これは鳩山氏を守る為に講じた手段と言われていて、周囲から促されたのか、鳩山氏は年明けを待たずに報道が少ないであろうクリスマスイヴの日に記者会見をして故人献金問題の事態収束を図りました。

 現時点では、今年度の補正予算の審議や来年度の予算の審議がどのようになり、野党側がどのような対応をするのか、与党側がそれに対してどのように決議まで持ち込むのかという動きは想像が付きません。しかしながら、最高実力者であるとされる小沢氏の問題がどのような形になるのか、首相である鳩山氏の問題で道義的責任が問われたり、昨日のような失言等から新たなる問題が発生したりすれば、国会が空転してしまったり、与党連立政権の中でも食い違いが表面化してしまう虞もあると言えるでしょう。

 あまり報道されていませんが、政治学学徒である私が、今回の小沢氏の問題で思い出すのが、1992年から1993年にかけて大いに騒がれた「金丸信氏の東京佐川急便事件」です。ある意味で検察等の動きを想定したり、比較するには最適の先行例であるのですが、報道ではそういう視点はほとんど見られません。

 簡単にご説明すると、竹下登氏の側近中の側近として、当時の自民党の実力者であった金丸氏が、竹下氏への問題対処から裏社会や東京佐川急便という佐川急便関連会社とお金のやり取り等を行っていたことが判明し、それが政治とカネの問題として騒がれたものです。

 小沢氏のケースと同様、献金したとされる側の話と受け取ったはずの側の話が不自然に食い違うことから検察の捜査が始まりました。金丸氏のケースでは政治資金規正法(規制法ではない)違反で20万円の罰金という形で収束したことから検察批判が捲き起こり、検察はマスコミにもリークせずに水面下の捜査を進め、1993年3月に金丸氏が任意の事情聴取に応じた際に、突然逮捕をしました。容疑は「脱税」でした。

 その後の強制捜査で、金丸氏の関連の場所から金の延べ棒や無記名のワリシン(日債銀の債券)が大量に出て来て、政治的にも個人的にも申告していない「裏
金(タマリと呼ばれた不正蓄財)」を摘発されることになりました。

 実際その資金は個人のものではなく、自民党の関連の資金であったともされたのですが、金丸氏の政治生命はそこで絶たれ、裁判を闘う中1996年3月に亡くなりました。

 比較してみると、今回の小沢氏のケースでの問題点や疑問点はいくつも挙げられるのですが、ひとつだけ申し上げるとすれば「検察が情報を報道陣にリークしているようである」ことです。小沢氏に対する印象を悪くしようとしている意図があるとも言われていますが、それならば金丸氏の時のように意地でも証拠を押さえて逮捕まで持ち込むはずです。自信が無いのであらば、リークをすればするほど動けない検察に批判が集中しやすくなってしまいます。

 何故、検察が自分達が行動しにくい方向性を選んでいるのかが、私にはトンと察しがつきません。

 いずれにいたしましても、小沢氏は金丸氏の側近の一人でした。金丸氏の問題に際して擁護をしていた小沢氏は、金丸氏失脚後自民党と袂を分かって新党への道を選ぶことになりました。今、師匠でもあった金丸氏の出来事も踏まえて、小沢氏の心境はどのようなものであるのか。。。とても興味深く感じています。

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