経済学どころではなかったバンクラデシュの飢饉
貧困層に低金利、無担保貸融資。それにも関わらず返済率はほぼ100%以上。マイクロクレジットと呼ばれる融資モデルでグラミン銀行を運営し、2006年にノーベル平和賞を受賞したムハマド・ユヌス総裁がこのたび来日し「貧困のない世界を創る」と題して講演した。力強いメッセージの講演、また、なぜグラミン銀行は大成功を収め、この金融危機の中でも生き残ることができるのかなど、YUCASEE MEDIA(ゆかしメディア)が聞いた舞台裏と合わせて前編、後編の2回にわたってお送りする。
(以下ユヌス氏の講演)
私はたまたまバンカーになったに過ぎないんですよ。アメリカからバングラデシュに帰って来た私は、(チッタゴン大学で)学生たちに経済を教えようという熱意にあふれていました。ところがバングラデシュは飢饉がすさまじく、さらに人々は貧しくなって食べ物もなく、人がどんどん亡くなっていくのです。
しかし、後でわかったのですが、食糧は余っていました。経済学が役に立たない。私は現実の前には無力でした。理論を捨て去ろう、人間に戻って考えようと思いました。村人の状況が何となくわかってきて、ビックリしました。
追い込まれた人々が高利貸しから少額のお金を借りていて、その奴隷になってしまっているのです。こんなことがあっていいのかと大変ショックでした。だから、もう少し知りたくなって自分で調べてみたのですが、そうすると、42人が総額27ドルを借りていたのでした。こんな少額を借りて苦しんでいるのかと、驚きました。
ただ、この問題は解決できると思いましたね。27ドルをあげて、返済してもらえばあとは自由なのだから。ただちに実行すると、人々は喜びました。こんな少額で幸せになれるのなら、できないことはないはずです。
ムハマド・ユヌス氏(グラミン銀行総裁)