幸せと金儲けは両立できるか?【1】

自分の足で調べた情報は感謝される

 卒業後はイマジニアというゲーム会社に新卒第一期で入社。大学時代に心根を改めて、ゼミ代表までなったのに、最初の仕事はおもちゃ屋の飛び込み営業でした。入社初日の会議でいきなり『うちの会社は大変だ』と宣言されて、30万本売れないと、損益分岐点を超えないそうで、8万本しか予約が入っていないので、明日からここにいる全員が飛び込みセールスだと。営業先のリストぐらいはあるのかと恐る恐る聞いたら『そんなもんはない!』と。1軒1軒おもちゃ屋を回って売ってこいということでした。

 小田急沿線の駅に降りては、そのあたりの子どもを捕まえて、どこでファミコンゲームを売っているか聞くんですが、当然のことながら気持ち悪がられて教えてくれなかった。最初のおもちゃ屋の言葉は今でも忘れないですよ。『おお、イマジニアか、初めて来たな。お前のところのソフト売れないから、持って帰ってくれ』。売り込むつもりが返品要求。当然、三日で辞めようと思いましたが、いずれ家業を継ぐつもりでしたし、ここではまだ辞められないなと。とにかく繰り返し行くことが大切だとはわかっていたので、何度も営業に行きました。

 大企業と違い個人経営の店は温かくて、顔見知りになると、買ってはくれないけれど、何に困っているかは話してくれるようになった。ファミコンソフトは、売れるかどうかわからないのに確定発注を2カ月前に出し、しかも返品できないシステムという超相場商品。自分も商売人の息子なので、おもちゃ屋のおじさんたちが何で悩んでいるかすぐにわかりました。何のソフトを何本仕入れればいいのか、それが知りたかったんですね。

 売るのは難しいけれど、情報を仕入れるのは意外と簡単。家電量販店や有名おもちゃ屋に行って、今度のドラクエを何本仕入れるか教えてもらって、その情報を小田急線沿線の小さなおもちゃ屋に流したわけです。

 すべてのビジネスの基本は飛び込みセールスで学びました。こっちが言いたいことを言っても、誰も聞いてくれない。でもその人が悩んでいる情報を、コピペではなくて、自分の足で調べて教えると感謝され、熱心に聞いてくれるんです。飛び込み営業でそれを学んだ以降は、怒っている人を見ても、その怒りや悩みの原因を探してくればいいと考えるようになりました。

 イマジニア時代に『松本亨の株式必勝学』という株式のゲームを作ったとき、絶対売れないと言われていましたが、飛び込み営業で信頼関係を築いた人たちから『よくわからないけれど、お前が言うから買ってやる』と言われた。これは営業の究極形ですよね。商品の説明をひとつもしなくても、自分を信頼して買ってくれる。そこには真のパートナーシップがありますよね。その人の期待を超えるものをやらないと、本当のパートナーシップにならないと思うんです。(続く)

【プロフィール】
 久米信行氏 久米繊維工業株式会社 代表取締役社長
慶應義塾大学経済学部卒業。イマジニアで株式ゲーム、日興証券で相続診断システムを開発後、家業の三代目となる。T-GALAXY.comで日経インターネットアワード.IT経営百選受賞。現在第二創業期に邁進し、日本でこそ創りえる久米繊維謹製Tシャツを世に問う。AllAbout Tシャツガイド。明治大学商学部講師。東京商工会議所IT分科会長、墨田ブランドアップ推進会議委員。連載は経営者会報.日経パソコン.日経ITpro.日経ベンチャー等多数。

 天野敦之氏 公認会計士
一橋大学商学部経営学科卒業。大学在学中に公認会計士第二次試験に合格。その後、同三次試験に合格し、公認会計士登録。大学卒業後、外資系コンサルティング・ファーム勤務を経て、証券会社の投資銀行部門でM&Aや資金調達、証券化等のアドバイザリー業務、グローバルマーケッツ部門で地域金融機関への提言業務に従事。その後、公認会計士天野敦之事務所を設立し、財務会計の視点から、人の幸せと企業の利益を両立させるためのアドバイスを提供。多くの企業の業績改善を実現している。主な著書に『会計のことが面白いほどわかる本』(中経出版)など。

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