格下げされてもなぜ国債は売られないのか?

 米格付け会社のS&P(スタンダード・アンド・プアーズ)は、日本の外貨建て・自国通貨建て長期ソブリン格付けを、「AA」から「AA-」に1段階引き下げた。格下げは、将来への警戒警報。ただし、それがどれほどの将来なのか、どの程度の事態を警戒しなければならないのか、そこまでは教えてくれない。

 S&Pは格下げの背景として、1)日本の政府債務比率がさらに悪化する見通しであること、2)長引くデフレが日本の債務問題をさらに深刻化させていること、3)民主党政権には債務問題に対する一貫した戦略が欠けていること、などを挙げた。

 一方、先進国最大の公的債務を抱えながら、市場の反応はいたって冷静。この不思議な安定感の根拠として、1)日本は経常黒字国で対外債務に依存していないこと、2)日本国債を保有する非居住者の比率が5%前後にすぎないこと、3)潤沢な国内民間貯蓄があり、当面は国内金融機関によって国債が消化される可能性が高いこと、などが指摘される。

 第一生命経済研究所の熊野英生主席エコノミストは「政府にしてみれば、6月に『消費税を含む税制抜本改革の基本方針を示す』と言っているのに、それが正当に評価されないことに不満があるだろう。格付け機関は、まさにここに日本政府が強い積極性を見せることを訴えたかったのであろう」と分析する。

 また、「日本国債の評価は、菅首相がスピード感を増す方向に舵を切り、覚悟を決めて取り組むかどうかにかかっている」(熊野氏)と述べる。

 政府のおしりに火がついて、財政再建を強力に推し進めるのか? 微妙なバランスが崩れるまで、ひたすら公的債務を積み上げ続けるのか? 世界が見守っている。

よかったらシェアしてね!
目次
閉じる