トーヨー・キッチン社長の「成功のブランディング」

大胆かつ繊細、次なる“クールジャパン”とは?

 「メイド・イン・ジャパン」と括られるブランドは、地道な研究と繊細な技術に裏打ちされた実力が身上だ。だが、そこにこだわりすぎることで、トータルな視野を欠くきらいがある。虫の目と鳥の目、どちらに偏っても次のステップは難しいだろう。


渡辺社長
 その成功例といえる企業が名古屋にあるトーヨーキッチン&リビングだ。元々はお隣の岐阜県関市にある洋食器製造業から出発し、その後ステンレスの製造技術を磨きながらキッチンメーカーへと発展していった。だが、大手が席巻する市場で生き残るには熾烈な価格競争とは無縁ではいられない。多くのメーカーが力を失っていくなかで、現3代目社長である渡辺孝雄氏が着目したのは「ライフスタイル提案」というソフトだった。

 「キッチンを暮らしの中心にしようと思ったんです」と、渡辺氏はその発想を明解に語る。アイランド型をリビングルームにレイアウトすることで、食を基本にした新しい住宅コンセプトを生み出した。「90年代最初に提案したときはかなり驚かれましたが、最近では海外のインテリアデザイナーや建築家からも注目されています」

 同時に、そうした空間に合うような家具の輸入を手がけ始める。渡辺氏自ら海外のメーカーや工房へと足を運び、独創的な家具・内装品の買い付けを行った。結果として、ショールームもキッチンだけの無骨さとは無縁とばかり、モダンな家具を置いたインテリアショップのような仕上がりとなっている。

さらに渡辺氏がユニークなのは、自らの趣味性を商品開発へと生かす大胆さ。人と同じ背丈のザクのフィギュアや、アメコミをモチーフにしたキッチンのモザイクタイルなどでショールームを訪れる人の度肝を抜く。奇抜だが粗雑さとは無縁、忘れられないインパクトを与えることは間違いない。

 氏が以前から温めていたプロジェクトが、この春始動する。それがwhereabouts(ウエアラバウツ)というアパレルブランド。レディースラインから始めることが定例なファッンション業界において、メンズコレクションのみ、かつアイテムが数点というのも型破りだろう。キッチンづくりのノウハウを生かし、上質な素材を使いながら、手頃な価格を実現した。

 「青山にあるCIBONEのように、インテリアとファッションを組み合わせた商品展開はありましたが、僕が目指したのはキッチン+ファッションです」と語る。そしてその先に氏が見据えているのは、欧州のメガブランドにも匹敵するブランド展開だ。


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 「日本の企業は商品ごとのマーケティングは優れています。でもトータルなブランディングはまだまだ。ファッションでいえばエルメス、オーディオでいえばB&Oのように、ブランド自体のトータルイメージをつくらなければ」

 ディテールへのこだわりと大胆な戦略。“クールジャパン”のさらなる一手として、大いに示唆に富んでいるといえるだろう。

トーヨーキッチン&リビング株式会社 http://www.toyokitchen.co.jp

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