かつての香港は、ふたつの顔を持っていた。これは抽象的な意味ではなく、地政学的なローカリティといってもいい。
つまり、九龍半島と香港島。大陸と陸続きの九龍地区には、庶民の暮らしが息づき、垢抜けなさと中国ならではのバイタリティが共存するエリアだった。対して香港島はより洗練された国際都市の趣。英国統治下の頃は海外企業も多く、エスタブリッシュな雰囲気が漂っていた。フェリーが行き交う海を隔て、香港が持つ中国と英国の2つの顔を表していたといえるだろう。
返還後、その図式は大きく変わった。SARSや鳥インフルエンザによる観光客数の激減、上海の台頭による金融中心地のプライオリティ低下に伴い、地価の高い香港島が敬遠され、九龍が注目を集めるようになっている。さらに発展の著しい中国本土との結びつきが強くなったことから、九龍駅のあるエリアが著しい発展を遂げつつある。
その象徴ともいえるのが、ザ・リッツ・カールトン香港だろう。かつて香港島のビジネス中心地、中環(セントラル)にあったこのラグジュアリーホテルは、2008年営業停止したが、この3月末に西九龍地区で再オープン。場所は超高層ビルのインターナショナル・コマース・センターの102~118階部分を占め、「世界でも最も高い場所にあるホテル」が代名詞となっている。
このホテルはエアポートエクスプレスの発着も兼ねる九龍駅の真上に位置しており、香港国際空港へのアクセスも抜群。多くの企業が入るソーシャルセンターであり、かつ低層階には大規模な高級ショッピングモール「Elements(エレメンツ)」もテナントに。
日本の「ワンダーウォール」を始め、アジアでもトップクラスのインテリアデザイナーが手がけた内装の数々、天井に28m×7mのLEDスクリーンがしつらえた118階のプールも見逃せないが、いちばんの話題は屋上のオープンエア・ルーフトップバーだろう。海抜490mからの鳥瞰は、香港の新しい観光スポットとなるに違いない。
九龍という名の由来のひとつに、“永遠に続く幸運”の意味があるという。香港の熱気が中国の上昇気流と連動し、新しいダイナミズムを刻みつつある。変わり続けるこの街の新しい一面が、ラグジュアリーな高層ホテルからも垣間見れるだろう。
ザ・リッツカールトン香港
www.ritzcarlton.com