真っ黒なスーツにヒールの高い靴、一見、普通のキャリアウーマンと同じような服装に身を包んだ陳さん(21歳)の職業は、ボディーガードだ。一旦車から降りると、鋭い眼を光らせて、駐車場に危険がないかチェックし、“女富豪”を建物の中に送り届ける。
現在、陳さんのような若い女性が、これまで男性の職業とされてきた、ボディーガードになる道を選んでいるのだという。
中国では富豪の数が急速に増えているが、実にその3分の1が女性と、世界でも女富豪の数が多い国だ。貧富の格差が広がるにつれて、不満やねたみなどから、富豪が拉致されたり襲撃されたりする事件も発生していて、富豪たちは身の危険を感じている。女富豪も同様だ。崔さんは女性ボディーガードの会社を設立したが、きっかけは自分自身の経験からだった。出張中、2度も襲撃に遭ったのだという。
崔さんは、女性ボディーガードの利点は“人目につかないこと”をあげる。「もし2人だけで部屋にいても、周りから見れば、彼女は秘書のようにみえるでしょう。男性だと、勘違いされることもあるから。」と話す。
崔さんの会社では、ボディーガード育成に約半年を費やす。学習内容は拳法や救急処置の基本、さらにはマナーなど。
こうした訓練を受けたボディーガードの給料はなかなかのもの。会社は一人当たり一日300ドル(約2万3000円)請求し、うち100ドル(約7600円)が彼女たちの懐に入る。中国の大卒初任給が平均2337元(2万8000円)だから、かなり良い。
女性ボディーガードを利用している女富豪の甘さんは、安心感が高まったという。「私の友達は、かつて拉致されたことがありました。それ以来、業務が深夜に及びそうなときは、必ず、ボディーガードをつけるようにしています。守られているという安心感は、なかなか良いですよ」という。
中国では、身の安全のために海外に移住する人もいるほど、富豪たちの危機感は高まっている。それにつれて、女性ボディーガードの活躍の場はますます増えていくことだろう。