吉本興業が、株式公開買付け(TOB)を実施し株式の非公開を検討していることが、明らかになったが、今だからこそ踏み切るには、2つの目的があるという。
■打つ手がなくなった創業家
今回の非上場化計画は、民放キー局など数社が共同出資し、500億円規模で全株式を取得する方向で話が進んでいたのだという。その目的は、現経営陣と創業家とのイザコザの解消、さらには安定的な経営基盤の確保だと、関係者は見ている。
TOB化で最大の障壁となるのが、創業家の林家の存在。資産管理会社の「大成土地」は吉本興業の9%強の株式と、大阪本社や主要劇場などの不動産を所有している。だが、林家の当主・マサさんは、長男の林正樹氏の役員就任要求など自身の主張が他の株主に賛同されずに動きはトーンダウンしているという。
こうした様子を「完全に打つ手がなくなっているように思える」と吉本関係者は明かす。ならば、騒動を沈静化させるには、創業家が動きを取れない今こそが非上場化を進めるチャンスと見るのは当然。完全決着するには今が好機なのだ。
■長かった4年間の戦い
問題の発端は4年前に遡る。62歳だった林裕章元会長の死去。いわゆるオーナー会長で、さらに業績も伸ばし、吉本芸人たち、制作チームがまだまだメディアに盛んに侵食している時期だった。この時に、将来的に後継者となると見られていた林正樹氏は、まだ30代前半で吉本に入社したての頃だった。
これをきっかけに思わぬ問題が数多く表面化した。元最高幹部役員が、会社の資金を私的に使い込んだとの疑惑が噴出。それに絡んで漫才師中田カウスさんが、同最高幹部役員を恐喝したのではないか、という騒動にまで発展。さらには、ここに創業家まで巻き込んでのてんやわんやの状態となった。
ただ、“カウス問題”は刑事事件としては立件されておらず、すでに沈静化。かつては“後継者”だった正樹氏も当時は「他の社員が5年以上かかる所を1年くらいで通過していく」(吉本関係者)という出世ぶりだったが、現在は本体ではなく関連会社に籍があるのだという。反撃の余力があるのかどうかは疑問だ。
■新たなお笑い創出のためには非上場も一つの方法?
テレビ局などが制作費の削減を迫られる中で、他のプロダクションとの提携や合併など芸能界の再編に乗り出すことも視野に入れているのだという。元々、ジャニーズ事務所、バーニングプロなど名だたる芸能プロダクションはほとんどが非上場のオーナー企業。逆に上場企業はグループに芸能プロを持つエイベックスGHD、ホリプロくらいしかない。
上場企業は毎期ごとに定期的に事業収益を上げることが求められる。しかし「タレントを育てるには、時間と金がかかります。数字を追って株主の顔色を見て、ということばかり気にしていては…」(関係者)。
吉本興業は現在600人以上の芸人を抱えるという。TV局などのギャラ、制作費なども削られる中でこれだけの大所帯を食べさせていくためには、大胆にTV局や他の企業とのコラボレーションを積極的に仕掛けていく必要もありそう。既存の枠にとらわれない「お笑い」を追求していくためには、非上場化も選択肢の一つなのだろう。