前原国交相の「羽田ハブ化構想」を受けて、成田空港は俄然テコ入れを始めました。B滑走路の延伸に続いて、周辺の9市町と協議して現在航空機の発着を禁止している「23時から翌朝6時まで」の制限を緩和する方向を模索して、発着枠を増大させ、活気を付けようと躍起になっているところです。(http://mainichi.jp/area/chiba/news/20091216ddlk12040128000c.html)
滑走路延伸に伴う来年3月からの発着枠の国内航空会社の増大分を、ほぼ全て全日空が請け負う方向で国土交通省が方針決定したと報道されました。都合年間2万回の増大枠の内、国内航空会社に割り当てられるのはその半分の約1万回にもなります。(http://mainichi.jp/select/biz/news/20091217ddm002010063000c.html)
その報道によれば、現在年間20万回の発着枠の内、日航は約4万7千回、全日空は約2万6千回の枠を有しています。日航が来年1月に公表予定の再建計画の中で21もの国際線路線を削減する予定であることから、羽田空港での国際線増枠に対象を絞り込み、成田の増枠は望まなかったというのが、正直なところのようです。
現在、日航の経営問題ばかりが問われていますが、全日空も経営環境では同じ局面に立たされています。約千人の人員削減やグループ会社の集約等のリストラをしてはいますが、燃料費の高騰や過去のイメージ作りの為の他業界にも増した高人件費等々で、高い経費を既存航空会社は賄うことが出来ず、国を跨いだ世界レベルの統合やLCCと呼ばれる格安航空会社の台頭で、長期的な展望を持てていないのが現状です。国際航空運送協会(IATA)も2010年度の世界の航空業界全体を予想して、原油高と競争激化による運賃引き下げの影響から、56億ドル(約5010億円)の損失が見込まれると発表しています。(http://www.bloomberg.co.jp/apps/news?pid=90920013&sid=aFpWjcF30Jo4)
そんな中、前原国交相は「JALは潰さない」と語り、法的整理を含めた再建への間口を狭めてしまうと共に、「政府による全面救済」を明確にしてしまいました。全日空からすれば、日航への支援への国民感情を考えれば、これで全日空も、ともなれば不満が出ることになるので、自社については自助努力を求められるという雰囲気を感じ取らざるを得ません。
似たようなことが7年前にもありました。日航と日本エアシステムの経営統合の際に、全日空は「国内線で寡占状態が起きる」「全日空が潰れる」と主張したものの、政官界にパイプのある日航が半ば力ずくで統合を実現させたのです。その後全日空はリストラを断行したという経緯があり、現在の財務体質上も日航を上回る体制を構築しました。
ですから、日航の政府全面的支援を受けて、11月に全日空の伊東社長は「政府は公平公正な競争環境を保つべきだ」と語る事態となりました。
(http://video.aol.co.uk/video-detail/-/1170904463/?icid=VIDURVNWS01)
背景として、一部報道では、「国際線発着調整事務局」という組織があり、成田空港等国際線の発着時刻等を調整しているのですが、1970年以来そのハンドリングを日航が握り続け、ようやく昨年から第三者機関である財団法人日本航空協会に委嘱先が変わりました。しかし、事務局長は国交省出身者であり、海外での透明性に比べブラックボックス化されているというのです。全日空としては、従来の日航の影響力や新しい国交省の影響力が、日航得意の「困ったときの官頼み」になり、アンバランスになっていくのではないかと猜疑心を膨らませている様子です。
もしも、国交省が日航を潰さないという方向性ばかりに気を取られて、日航寄りの姿勢を取れば、下手をすると日航も全日空も弱体化させかねません。折からの「日米航空交渉」では、日航が新しい枠を交渉カードとして全日空に譲らず、米国エアラインキャリアに譲ろうという動きをしたとも言われています。今回の日航とデルタの提携も、日航延命の為の国交省による思惑と誘導であるとの報道もあります。
全日空は、貨物に力を入れて、那覇空港をカーゴハブ化させて、新しい流れを作ろう等の事業を進めています。認可事業である航空会社を指導・保護し、産業として確立しようという政策自体は構いませんが、バランスを失して「虻蜂取らず」にならないように気を配らないと、自由化や競争激化の波に両者とも巻き込まれてしまうことを意識して注目する必要があるでしょう。
いずれにしましても、全日空の自助努力が政治の道具と弄ばれて、「正直者が損をする」ことにだけはなっていただきたくないものです。