中国から第二の村上隆は生まれるか
中国では土地はすべて国有で、富裕層といえども不動産を持つことはできない。勢い、資産は投資へ向かう傾向がある。そのなかでも最近とみに熱を帯びているのがアート、特に無名の芸術家たちの作品だ。
彼らの多くは前時代的な工場跡地をアトリエやギャラリーへと変え、活動の拠点としている。北京には798芸術区があるが、上海ならばM50。北京同様、いかにも共産主義的な数字とアルファベットの無機質さとは裏腹に、そこで繰り広げられている商戦は静かに熱い。
例えばM50の草分けであるShanghART(香格納画廊)。スイス人がオーナーであるここはバーゼルアートフェアの常連であり、国際的にもっとも注目を集めるプライベートギャラリーのひとつだ。その売り上げは、5日間のバーゼルだけでも日本円で億単位は下らないと言われている。
結果として、多くの投資家の目は、有望な新人作家へ注がれる。賞を獲るなり、海外で売れているというニュースが伝わると、瞬く間に金額が跳ね上がるという。M50の成功を受けてか、欧米の目利きのプロデューサーがここを拠点とし、新たな水脈を探している。
ただ、加熱するアートシーンは玉石混淆の瑕を持つ。M50に限らず、上海全体のアートシーンでどこか似たようなモチーフ、タッチが散見される。特にブームとも言えるのが、毛沢東などの共産主義のアイコンを使ったグラフィカルなポップアート。あるいはオールド上海のリファイン。どこか予定調和的で突き抜けたパワーに欠ける。
また、隣接するギャラリーでアーティスト名は異なりながらそっくりな作品が並んでいるのを見ると、体制へ歯向かう孤高さより、商魂の逞しさを見出さずにはおかない。あくまで私見だが、以前訪れた北京に比べ、上海のほうがその傾向が顕著な印象だ。実際に、北京訪問時に取材したアーティスト界のフィクサー、黄鋭(ホアン・ルイ)氏は「上海は金儲け第一で、海外の物まねばかり」と厳しい言葉で評していた。
とはいえ、マネーとアートは決して対立するものではない。潤沢な資金によるパトロネージュが、優れた才能を呼び寄せ、育てることは歴史的な事実だ。中国の村上隆が生まれるか、上海のアイ・ウェイウェイが出てくるのか、はたまたコンテンポラリーアートの徒花で終わるのか。いずれにせよ、混迷ゆえにエネルギッシュな上海アートの現場は、刺激的であることは間違いない。
M50も含めたアートツアーはザ・ペニンシュラ上海の「ザ・ペニンシュラアカデミー」で開催中。