フランスが愛した“醜男なパリジャン”

 絵画、音楽、建築で美を輩出するフランスにおいて、なぜか男性は見てくれがイマイチのほうが愛される。

 日本で今も熱狂的なファンを持つアラン・ドロンより、そのライバルだったジャン=ポール・ベルモンドが人気だ。太め、猪首のジェラール・ドパルデューのギャラは常にトップクラス。なのに、息子のギヨーム・ドパルデューが端正なルックス、かつ実力があったにも関わらず、夭折した不遇さも含めて今ひとつキャリアに恵まれなかった。

 そのパラドクスの象徴といえるのがセルジュ・ゲンスブール。歌手、作詞・作曲家、俳優としての華々しい成功を収めたが、そのルックスはお世辞にも「ボー・ギャルソン」(美男子)とはいえない。本人も生涯コンプレックスだったという大きな鼻と耳、無精髭に寝ぼけたようなはれぼったい目、太い首。ヘビースモーカーで無類の酒好き。

 さらにテレビで500フラン札を燃やしたり、『ラ・マルセイエーズ』をレゲエ調でカバーして右翼に狙われたり、セックスをほのめかす歌詞で発禁処分を受けたりと、スキャンダルのネタには事欠かなかった。それなのに、付き合う女性は美女ぞろい。

 人妻だったブリジッド・バルドーと浮名を流し、ジェーン・バーキンとは一目で恋に落ちた。早すぎた晩年には30歳年下のモデルと同棲し、一子をもうけている。本業でも、エディット・ピアフやフランス・ギャル、アンナ・カリーナ、カトリーヌ・ドヌーブ、ヴァネッサ・パラディなどの名だたる著名人に楽曲を提供している。

 破天荒ながら筋を通した人生は、毀誉褒貶を繰り返しつつ、62歳で突然終わりを迎えた。心臓に病を抱えていたにも関わらず、死の間際まで酒とジタンを手放すことがなかったという。

 「またひとり、生粋のパリジャンが死んだ」とフランス中が嘆いてから今年でちょうど20年になるが、その人気は衰えを見せない。命日には母国は元より、日本を含む世界各地で記念イベントが開かれ、トリビュート盤などのCD売り上げも好調。昨年には伝記映画『セルジュ・ゲンスブールと女たち』(5月日本公開予定)が製作されるなど、故人でありながら、「最も外貨を稼ぐフランス人アーティストのひとり」と言われている。

 かつてはアヴァンギャルドの代名詞でもあったフランス文化は、次第にエッジを失くしつつある。それと同時にカルチャー発信地としてのパワーも低迷気味だ。「ワルで高貴な異端児」への羨望に、往年の熱気へのノスタルジーが垣間見える。

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