生活保護で無料のホテルと化した病院

 生活保護世帯の増加に伴う社会の負担増が顕著だ。 厚生労働省によると、被保護世帯数は152万世帯、209万人(今年2月) で、給付額は年3.3兆円に達したという。そのうち約半分の1.6兆円が医療扶助費である。消費税歳入が約10兆円であることを考えると、実に消費税約2%相当額を医療扶助費に費やしている計算となる。今回は、こうした実情について医療現場から報告したい。                      国立大学病院勤務医

冷暖房完備、3食・看護付きの病院に居座る患者達


 「こんな状態で帰れるわけないじゃない」

 普段は静かな病棟で怒号が響きわたる。要求すればするほど、得をするいわゆる「ゴネ得」が医療の現場では横行し、次のような会話も日常のようなものだ。

 「もう入院治療をしなくても大丈夫ですよ」

 「そんな事言って家で何かあったら、あんた達訴えるからね」

 70歳前後に見える女性が退院を巡って病院職員と言い争いをしていた。普段は生活保護を受けながら近くのアパートに一人で住んでいるが、足の調子が悪く病院通いをしているとの事であった。今回は足に感染を起こした為に治療目的で入院していた。入院して一週間が経過して医師からは退院許可が出たものの 、アパートでの一人暮らし再開にはまだまだ不安だったようだ。

 この女性が入院継続を主張するのも理解できる。というのも入院していれば、冷暖房完備の部屋で一切の家事をしなくても3食が提供される。体調面、その他困った事があれば優しい看護師がたいてい何でもしてくれる。あらゆる医療も常時受ける事ができる。

 このような至れり尽くせりのサービスがほぼ無料で受けられるのであれば、少しでも体調に不安があるうちは誰だって入院していたい。退院を拒否して当然とも言える。ただこういった退院拒否は何も生活保護受給者に限ったことではない。自宅では介護を仕切れなくなった高齢者を、医学的には適応がなくても療養施設より遥かに安価に入れる病院に入院させそのまま退院を拒否するといった光景もまま見られるのが現状である。

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