破綻するブラック企業の楽しみ方(2)

第二回 失笑をかった「無知からの脱却」セミナー

 前号で取り上げた日用品チェーンはクレームに真摯に対応しなかった結果、悪評が業界内に蔓延していった。代理店の新規獲得は停滞し、5年の契約期間が経つと代理店契約を更新せず、離脱するオーナーが増えていった。(経済ジャーナリスト・浅川徳臣)

社長「事業への想いが足りないからです」


写真はイメージ
 原因は本部の危機意識の欠落と断じてしまえばそれまでだが、これは経営課題というよりも、はるかに初歩的な、ありていにいえば人の心に根ざす問題である。人を苦難に追い込めば、やがて自分にはね返ってくるという、ビジネス以前の世間の理に経営陣が鈍感だったのだ。

 それは、全国の代理店オーナーが出席する年次フォーラムの場でも見てとれた。登壇した社長はクレームの増加に言及せず、叱りつける口調で声高に言い放った。

 「赤字を出しているのは、事業への想いが足りないからです。想いが足りないのは、ご自分の人生に誠実にむきあっていないからです。そういうオーナーが従業員に夢を与え、お客様に感動を与えることができるでしょうか?」

 この詭弁は自社の社員を煙にまくことはできても、世間には、まして一国一城の主として風雪をしのいでいるオーナーたちには通じない。反感をまねくか、失笑を誘うか、あるいは諦観を呼ぶか。少なくとも真に受ける人はいないだろうが、静まりかえった場内を見て、社長も、居合わせた役員も社員も、オーナーたちに反省を促せたと曲解した。我々の見識で彼らを教え導いているのだと。

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