破綻するブラック企業の楽しみ方(11)

第11回 社員に漏れていた臨時取締役会での民事再生申請決議

 人材紹介会社が毎週月曜日に開く全体朝礼に登壇した社長は、言葉を選びながら、ゆっくりとした口調で、昨日開かれた臨時取締役会で民事再生手続きの申請を決議したと発表した。朝礼が行われた大会議室は、しかし、凍りついたような空気にはならなかった。(経済ジャーナリスト・浅川徳臣)

役員が守秘義務を無視して口外

 多くの社員は驚いた表情を見せず、冷静だった。いつXデーがきても不思議でない状況だったからだけではない。昨日の臨時取締役会で民事再生の手続き申請を決議して、今日の朝礼で発表されることが漏れ伝わっていたのである。

 もはや、この会社は機密情報の管理を徹底できる体質ではなくなっていた。役員のなかに部長に民事再生の申請を口外する者がいて、そこから一部社員に漏れ伝わり、日曜日の深夜から月曜日の朝にかけて、燎原の火のごとく社内に広まっていたのだ。

 ある若手社員は「災害時の連絡網を辿るような感じで、倒産情報はアッという間に駆け巡りました」と回想する。元役員は情報漏れについて、こう話す。「民事再生が通ってスポンサー企業がついたら、社長以下役員はお払い箱でしょう?誰が漏らしたのかはわかりませんが、問題になりませんでした。退職慰労金が出るかどうかもわからないですし、この期に及んで守秘義務も何もないですよ」。

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