大塚家具だけではない家具業界御三家の危うい相続

 家具販売大手の大塚家具の経営権をめぐって父娘が激しく争ったが、それと同時に一族の激しい相続争いでもあった。業界に悪印象を与えたことが影響してか、業界の繁忙期にあたる3月の月字売上はガタ落ちとなった。だが、家具業界の大手は強力な創業者のリーダーシップでのし上がった企業も多い。では、同業他社では、どうなのだろうか。ニトリ、IKEAは?

最大の危機は一族の富の源泉である会社の先行き

 大塚家具の業績はリーマンショックを境に下落を早めていく。大塚勝久会長(71)はインサイダー取引もあり、長女の久美子氏(47)が社長として継承するが、ここで両者が対立。同時に進めていた自社株の相続対策でも揉めることになった。

 先日の株主総会では、久美子氏が筆頭株主である父を下して経営の実権を掌握。これでノーサイドを強調したが、会長派人事をひっくり返す、第三者割当増資などの資本政策なども行われそうだ。第1期の社長時代には社内のいたる所に監視カメラを設置したほどで、戦々恐々とする社員たちもいることだろう。

 総会で2倍の増配が決定し、久美子氏自身も、一族の資産管理会社「ききょう企画」を通じて自社株を相続しており、こちらの役員報酬が増えることになる。ただ、社債償還は終わっていないことから、毎年2250万円の支払いを父・勝久氏に行っていかなければならない。自身の経済的な利益とも密接に絡むために、株主からは「自分たちの取り分を増額しない増配であればいいが」という意見も出ていたほどだ。

 戦いはどちらかが、無一文になるか、亡くなるか、それまで終わりはないだろう。だが、解決しなければならないのは、会社の経営。言うまでもなく、大塚一族の最大の資産であり富の源泉だが、ここの先行きが危ぶまれている。

過去と戦うニトリ創業家一族

 売上高555億円の大塚家具に対して、4172億円と圧倒的な大差をつけているのがニトリだ。創業家・似鳥家の二代目・昭雄氏が起業して現在の形にした。経済ジャーナリトは「似鳥氏は典型的なワンマン社長ですが、本人は会社を長男に継がせるつもりはまったくないようです」という。

 そんなことで、この大企業の将来に禍根を残すことになりはしないのだろうかと不安になるが、未来の心配よりも過去の相続との決別が済んでいないのだ。実は母と兄弟から、相続権をめぐって訴訟を起こされ、現在でも係争中なのだ。

 父のニトリ株は昭雄氏に相続されている。まだ小さな商店だった時代には家族でともに働いたというが、その株をめぐって昭雄氏の相続手続きに問題があったとして遺産分割協議の無効を求めていた。一審は母側の訴えが退けられ、現在は札幌高裁で控訴審が行われている。いまさら、司法判断によって株式の大移動があるとも思えないが、過去との戦いは創業家の心をバラバラにしていることだけは間違いない。

 これだけの大企業の相続争いはなぜほとんど報道されてこなかったのだろうか。それは、「係争が札幌地裁だから、中央のメディアに取り上げられる機会はほぼないだろうし、地元マスコミはニトリには目をつぶりますから」(同)という事情からのようだ。

◆ニトリHDの大株主
ニトリ商事       12.95%
ニトリ興業       5.01%
日本マスタートラスト  4.40%
(公)似鳥国際奨学財団 3.50%
ニトリホールディングス 3.46%
似鳥昭雄        2.98%
日本トラスティサービス 2.69%
似鳥百百代       2.69%
全国共済農業協同組合連合会 2.27%
※2014年有価証券報告書より

資産4兆円誇るミステリアスなイケア創業者

 ニトリ、大塚家具と比べて最もミステリアスな存在にあるのが、IKEA。低価格ながらもデザイン性の良さが人気を呼び、日本国内の売上高だけを見ても大塚家具を上回るほどの規模になっている。なぜ、ミステリアスな存在かと言えば、外資系で非上場企業であるという点だが、その要因は創業者イングヴァル・カンプラード氏が築き上げた堅牢な統治、節税機構にある。

 カンプラード氏は現在89歳だが、かつては祖国の税制に抗議して長らくスイスに住んでいたことがある。その経験からか、税制やコストについての考え方は現代のグローバル企業の主流を成すものでもあるだろう。

 すでに早々と第一線からは引退し、三男のマティアス氏がイケアを継いでいる。一見すると、事業承継は終わっているように思えるが、実際の統治権はまだすべてカンプラード氏の手の中にある。

 国際調査報道ジャーナリスト連合(ICIJ)の調査報道でも明らかになっているが、イケアのパテントやフランチャイズ料は、インターイケアホールディングス(ルクセンブルク)が所有。さらにこの会社を管理する財団はリヒテンシュタインに置かれている。現在、インター社はマティアス氏に禅譲されているが、ブルームバーグでは、ビリオネアに浮上したのではないかとも報じられている。

 また、英エコノミストによって明らかにされたのが、その統治機構。「スティヒティング・インカ・ファウンデーション」という一族の財団が、イケアの筆頭株主である資産管理会社「インカホールディングス」を支配している。同財団はオランダに籍を置くのだが、同国は財団に対して公開義務は米英よりもかなり甘く、多くのグローバル企業や大富豪たちがすでに利用している。この財団だが、議長カンプラード氏の意向が最大限に反映され、イケアの支配権を握るという。

 89歳ながら威光は衰えない資産420億ドルの世界有数の大富豪であるカンプラード氏、絶対的なカリスマが亡くなった後のことは誰にもわからない。

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