「金もうけの神様」とも呼ばれた著名投資評論家の邱永漢さん(享年88)の日本に住む遺族3人が東京国税局の税務調査を受け、香港などにある十数億円分の海外遺産の申告漏れを指摘されたことがわかった。NHKの報道では、香港の株式から得た配当についても、約9億円の申告漏れがあった上、国外財産調書の提出を行っていなかったという。香港メディアでも報道されている。
国外財産調書については、3人のうち2人は提出しておらず、相続税と所得税の追徴税額は、過少申告加算税などを含めて計約9億円だという。また、邱さんは生前、中国の建築機械メーカーの大株主となっている香港法人の大株主でもあることは知られているが、香港で配当を受け取っていたこと、株式の資産について過少に申告していたという。申告漏れは十数億円に上るという。
邱さんは2013年にICIJ(国際調査報道ジャーナリスト連合)によって公表された、租税回避地(タックスヘイブン)を使用した個人や企業のリストの中にも名前が掲載されていたこともある。節税にも関心はあったようだ。今回の遺族の申告漏れは、有名人のごまかしは利かないということを印象づけるものでもある。
また、国外資産の課税扱いについては一昨年に制度は改正されている。財産、相続人、被相続人の3要素が国内外のいずれに属するのかで、相続税は変わってくるが、相続人、被相続人の両方が過去5年以内に日本に住所がなければ、国外財産には贈与・相続税はかからないが、今回のケースは、遺族は日本居住だったためにすべて課税される。納税地は特に指定がなければ麹町税務署となる。
海外資産 国内資産
国外居住相続人 課税なし 課税あり
日本居住相続人 課税あり 課税あり
ただし、国外居住相続人の海外資産は「課税なし」としているが、被相続人が日本国内に住所を持っている場合は国外資産も課税対象となる。また、被相続人、相続人が、被相続人死亡の5年以内に日本国内に住所を持っていても、国外資産も課税対象となる。
ちなみに邱さんは、多くの著書を発表しているが、著書の中には「相続対策できましたか-お金はあの世に持っていけない」「非居住者のすすめ」といった、まさに相続がテーマのものもある。
「相続は人生最後の宿題です」
「相続税対策、本気でやるなら十年がかりで」
「税金は逃げ切れるものではありません」
「親の心子知らずは永遠の課題」
そのような記述もあり、また、香港を相続人の天国とも評しているが、今回の事案はそれが一つの原因ともなったことは皮肉でしかない。