ポールソン殺した「デス・レポート」発行元がヘッジファンド運用開始

 多くの企業の株価を急落させたことで恐れられている香港の投資調査会社マッディ・ウォーターズが、ヘッジファンドの運用を開始することが25日、SEC(米証券取引委員会)に提出した書類で明らかになった。これまで通称「デス・レポート」を発表し、多くの企業の株価を急落させ、場合によっては倒産に追い込むこともあった同社。かつては、サイノフォレスト株では、業界の盟主ジョン・ポールソン氏に土を付ける金星をあげるなどしたショートセラーの今後の動向にさらに注目が集まりそうだ。

 SECに提出したファイルによると、マッディウォーターズが母体のヘッジファンド運用会社「MUDDY WATERS CAPITAL LLC」は米デラウェア州に籍を置き、業務を行うオフィスはサンフランシスコに構えるという。スタート時の運用資産総額は1億1086万ドル(約140億円)になるという。

 創業者カーソン・ブロック氏はシカゴ大ロースクールを出た後に、中国で働き始め、中国企業の内情に関心を寄せることになる。かつてブルームバーグTVに出演した際にレポートの発表を「私的な聖戦」と語っており、義憤が原動力となっているようだ。

 その後2010年に、香港にマッディ・ウォーターズを設立し、レポートを発表していく。レポート発表、空売りの二本立ての攻撃で運用益を得ている。2010年には大手製紙メーカーのオリエントペーパーに関するレポートで、同社が公表している財務内容に偽りがあるという内容だった。後に監査法人などの調査で不正はなかったと発表されたものの、同社株価はごく短期間で半値にまで下げた。

 また一気に名前を広めたのは、2011年に発表したレポートで、林業会社サイノフォレストに関するもの。同社はカナダのトロント証券取引所に上場し、ポールソン&カンパニーが発行済み株式の約15%、3500万株を保有しており、筆頭株主だった。内容はサイノフォレストの根幹となる林業資源がほとんど水増しであるというもの。中国国内、カナダ国内にある森林面積が7割増しという事実を突き付けられ、株価は90%以上も下げることに。

 指摘事項はすべて事実であったために各方面に大きな衝撃を与え、会社は同業他社の傘下に入り経営再建中で、代表者は刑事告訴されるなどした。また、ポールソンも3500万株すべてを損切りせざるを得なくなって売却を余儀なくされている。結果的には、この一件で注目が集まり、この年のブルームバーグマーケッツ誌が選ぶ、市場に対して影響力のある50人「50 Most Influential」にも選ばれた。

 影響力は高まり、その後は知名度の高さを利用したツイッターの偽アカウントや偽メッセージが流されて、市場に大きな影響を与えてしまうこともあったほど。同社は主に中国企業の虚業、粉飾決算、ファンダメンタルズの問題点の3点から企業を探り、主に売上、利益や資産の水増しを中心にレポートしている。もちろん、これまですべての対象企業のレポート内容が正しかったわけではなく、後に指摘事項にはあたらないこともあった。ただ、上場企業側にある種の緊張感を与えており、投資家からの資金を集めて、新手のアクティビストとして今後はさらに驚異の存在になりそうだ。

 ◎レポートで取り上げられた主なこれまでの企業◎

◆オリエントペーパー(中国の製紙会社) 2010年 株価ー50%以上
 同社の2009年の売上高が40倍以上、資産総額で10倍以上をそれぞれ水増ししているとレポート内で指摘したことで、株価が急落し半値になった。その後は監査法人の調査によって、レポートの指摘が必ずしも正確ではないとの結論が出て、会社は存続している。

◆サイノフォレスト(中国籍の林業会社) 2011年 株価ー90%以上
 カナダで上場する同社に対して、マッディ社は2011年、レポートで森林保有面積を虚偽に申告し、また業績も偽っていたことを指摘し、株価は急落。「株価がゼロになるまで空売りしてやる」と宣戦布告し、実際に時価総額で約50億ドル以上が消滅し、同社株を保有していた大手ヘッジファンド運用会社ポールソン&カンパニーが大損失を被った。その後は破産申請を行い、現在は同業他社傘下に入り、経営再建中。このレポートが、ブロック氏の名前を世界的に押し上げる戦となった。

◆ニューオリエンタルエデュケーション&テクノロジーグループ 2012年 株価-60%以上
 語学学校を運営する同社だが、フランチャイズの教室を会社のものだと虚偽申告している上に、フランチャイズ展開費用を会社の残高として虚偽申告している、と発表した。1日で株価は3分の1下落し、その翌日も続落となり、2日間で6割以上の下落となった。

◆NQ MOBILE 2013年 株価-50%以上
 携帯電話のセキュリティ企業である同社はマッディのレポート中で、公表している業績から実際には70%以上も減収であると指摘された。また、中国市場のシェア55%も実際には1.5%で、ユーザー数も600万人ではなく、20万人程度だと合わせて指摘された。

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