時代遅れとなった「ヘリコプターで避難」
東京タワーやスカイツリーなどの展望台に足を運ぶと、「H」の文字がやたらと目につくことはないだろうか。ヘリコプターの発着所、ヘリポートだ。
東京には80もののビルにヘリポートがあり、この数は世界一だが、ほとんどは1回も使われていない。現状と課題をブルームバーグが伝えている。
まず、なぜこれほどの数のヘリポートがあるのか。それは政策的な理由によるものだ。1990年ごろより、政府は高さ45メートルを超えるビルにはヘリポートの設置を奨励するようになった。
はしご車が上の階まで届かないような高層ビルでの火災発生時に、ヘリコプターは有効な避難方法と考えられたのだ。
国の方針を受けて、デベロッパーは高層ビルにヘリポートを設置するようになった。現在東京には80、大阪には43のビルにヘリポートがある。これは高層ビル・都市居住協議会が把握している数で、同協議会が把握していない分も含めると、実際はもっとあるかもしれない。
しかし、防災の専門家は何年も主張している。「火災時にヘリコプターを使用することは効果的とは言えない」と。確かに火災が発生しているような状態ではヘリコプターの着陸も困難なうえ、1回の飛行で避難させられる人の数も限られている。
アメリカで最も多くのヘリポートがある都市は、ロサンゼルスだ。1958年から火災発生時の避難方法としてヘリポートの設置を求めてきた同都市だが、より効果的な火災発生時の対処システムが整ったとして、現在はヘリポートの設置を義務付けていない。
ヘリコプターよりも、迅速に使用できるスプリンクラーや火災時も使用できるエレベーター、避難経路を整備するなどしたほうが効果が高いと考えている。
ロサンゼルスがヘリポート設置を廃止したのは2年前のこと。その決定は、建物の形に大きな影響を及ぼしている。今まではヘリポートを設置するために建物の上部を大きく、屋上を平たくする必要があったが、不要になったため建物が屋上に向かうにつれて細くなり、ニューヨークのビルのような尖り屋根のものが増えてきている。
ロサンゼルスのエリック・ガルセッティ市長はブルームバーグのインタビューにてこう語った。
民間利用への厚い壁
東京のヘリポートはほとんどが災害時を想定して設置されているが、民間利用の可能性を模索しているところもある。
ザ・ペニンシュラ東京はグループのホテルがヘリコプターによる空港への送迎サービスを香港、バンコク、マニラのホテルで提供しており、日本でも提供を目指している。
ヘリコプターを使用すると、現在は車や電車などで1時間以上かかっている成田空港までの移動時間を30分程度にできるという。空港への行き来にかかる時間を短縮したい富裕層向けに、2020年の東京オリンピックにサービス開始が間に合うことを目指している。
ペニンシュラは2年前、国土交通省に計画を提出し、許認可を得た。だが問題は近隣の反対だ。ヘリコプターの飛行は騒音が発生する、また頻繁にヘリコプターが飛ぶ場所の下は安全面で心配があるとして、飛行空域となる銀座周辺の店舗は反対している。運航の反対を求める署名の数は10000を超えた。
ペニンシュラは反対する人々と話し合いを行い、彼ら彼女らに納得してもらえる形で実現できることを目指しているが、その話し合いにどのくらいの時間が必要かはわからないとしている。
ヘリポートはすでに多数あり、使用できる環境は整っていながら、ヘリコプターの有効活用への道は遠い。