参院選の「池上無双」今回も際立った存在感

 昨日行われた参議院議員選挙で、全121議席が確定した。自民党は56議席、公明党は14議席を獲得し、安倍晋三首相が勝敗ラインに設定した与党の改選過半数(61議席)を大きく上回った。

 憲法改正に前向きなおおさか維新の会は7議席を獲得し、同党などを加えた「改憲勢力」で参院(定数242)の3分の2を上回った。

 現職閣僚では岩城光英法相(福島選挙区)と島尻安伊子沖縄・北方担当相(沖縄選挙区)の2人が落選した。現在の焦点となっている原子力発電所と沖縄米軍基地問題に関して、民意を示す結果となった。

名物「池上彰VS政治家」

 開票と同時に盛り上がりを見せるのが、開票速報。特にジャーナリストの池上彰氏がメインキャスターを務めるテレビ東京系の開票速報番組は、池上氏が政治家たちに鋭い質問をしていくのが目玉となっている。

 安倍総理には「総理の演説をいくつか聞いたが、改憲に関する話は聞かれなかった。改憲は今回の大きなテーマだったはずなのになぜなのか」と切り込んだ。

 公明党の井上義久幹事長には「以前は『原発の耐用年数は40年』と言っていたのに、今回の選挙ではその話には一切触れていなかった」と過去の発言を問う質問をした。
 社民党の福島みずほ副党首には「社民党は存続の危機ですね。選挙が終わった後はどうされますか?」と自身の進退を問う質問も行った。

 民進党の岡田克也代表とは、言葉の意味を巡って激しくやりあう場も見られた。

 その他池上氏が厳しく指摘したのは、「今回初当選した候補者が今後何をしていく予定か」について。
 ダンスボーカルグループ「SPEED」のメンバーで、自民党公認で立候補していた今井絵理子氏には「選挙期間中に米軍基地問題については、あまり触れていなかったようですが、いかがですか?」と問いかけ、今井氏が「立候補して初めていろいろ考えるようになった。これから真剣に考えていく」といった趣旨の返答をしたことに対しては、「立候補されるわけですから当然、沖縄の問題を認識を深めて、自民党の政策について知っているのかなと思いましたけど、これから考えるということで、ちょっとびっくりしました」とコメントした。

 池上氏は今井氏のほか、元バレーボール日本代表の朝日健太郎氏、元プロ野球選手の石井浩郎氏らに今後について鋭く問いかけた。

 自民党の石破茂地方創生担当大臣と稲田朋美政調会長を同時中継している際に池上氏は「石破さんにとって、稲田さんは総理になる上でのライバルなのでしょうか」と直球すぎる質問をし、石破氏も「さすがに答えるべきことではありません」と苦笑した。

 その後石破氏とは長い時間やりとりをし、石破氏は「総理大臣になりたい、ではなく、総理大臣になって何をするか、が大事である」と答えているほか、池上氏の質問1つひとつに対し、淡々と答えていった。

 番組では安倍総理のほか、現在の政権の主要人物が大きく関わっている「日本会議」や、かつて大きな勢力を持ちながらも現在は数を減らしている「日教組」などについても詳しい説明が行われていた。

 他にも公明党の支持母体である創価学会を訪れ「創価学会が政治に関わるのは憲法が定めている政教分離の原則に反するのでは?」といったことにも触れていた。

今回も出た「池上無双」

 テレビ東京の選挙特番で、池上氏が政治家たちに鋭い質問をしていく様は名物となり、ネット上で「池上無双」と呼ばれている。「そんな直球ストレートの質問は池上さんしか聞けない」「池上さんの質問にどう対応するかで政治家の器がわかる」「投票する前にやってほしかった」といった声も集めている。

 池上氏は政治家に鋭い質問をする自身のスタイルについて、ニューズウィークのコラムにてこう語っている。


池上彰氏 Jun Sato/Getty Images
「私はジャーナリストとして当然のことをしたまでで、これに関する評価は面映ゆいものがあります。アメリカのテレビの政治番組なら、政治家に対しての容赦ない切り込み、突っ込みは当然のことだからです。

 日本なら『失礼な質問』に当たるようなことでも、アメリカでは平然として質問をしますし、質問を受けた側も、怒ることなく(怒ったら負けですから)、見事に答えます。そんな当然のことをやってみたに過ぎないのです。

 私の質問に対する政治家各氏の反応はさまざまでした。怒り出す人、論点をずらして反論を試みる人、他党の例を出して誤魔化そうとする人、絶句する人—-。期せずして政治家の性格やレベルが浮き彫りになりました。

 こうしたインタビューが評価されるということは、逆に言えば、これまでの政治番組や選挙特番が、政治家に対して、厳しい質問をしてこなかっただけなのではないでしょうか。
(中略)
 政治家に質問を投げかける側が、政治の勉強をしていなかったりするようでは、本質を引き出すことはできません。
 なれあいの質問、返事が容易に予想できる質問ばかりを投げかけていては、政治家は緊張することがありません。自分を高めていこうという意欲をかき立てることもありません。

 まずは、政治報道に関わるジャーナリストが、「いい質問」を鍛え上げること。日本の政治を立て直すためには、ここから始めてはいかがでしょうか。
 政治家を育てるような質問を考えるのです」

 池上氏は番組の最後でこう語った。
「参議院で改憲勢力が3分の2に達しそうです。戦後初めて、憲法改正が現実味を帯びた結果となりました。
 しかし、今回『憲法をどうするのか』を与野党がしっかり議論したわけではありません。与党が、憲法を選挙の争点として触れることを避けてきたからです。
 私たちは憲法をどうするのか。それはこれから考えていかなければなりません。

 そして、今回は初めて18歳、19歳に選挙権が与えられました。彼ら彼女らがどのくらい投票したかはわかりませんが、私たちの未来は、若者たちに託すしかないだろう、と思っています」

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