「お店でのマナーがわからない」という声が多いのが、高級寿司店での振る舞いだ。
フードプロデューサーで『美しい人は正しい食べ方を知っている』などの著者のある小倉朋子氏のところにも、テーブルマナーの講習を行う際に、高級すし店に関する質問がとても多いという。小倉氏に、高級寿司店でのマナーについて聞いた。
高い店はルールが多いのか?
「高級寿司店のカウンターではしゃべってはいけないんですよね? とか、高い寿司屋はつまみを頼むもので握りをたくさん頼むのはマナー違反って本当ですか? とか、いろいろなことを聞かれます。
私が知っている高級寿司店や老舗には、そのようなことを言うところはありません。こだわりのおつまみを用意しているところもありますが、お寿司屋さんは握り寿司を食べるところですから、お寿司を頼むことは問題ありません。むしろ頼むべきです。
そんなに難しく考える必要はないのです。『食べたいネタを注文して、食べて会計を済ませて退店する』という基本の流れは、回転寿司でも高級店でも変わりません。
寿司ネタは味の淡白なものから注文し、味の濃いものにとか、まずは玉子を頼む、玉子は最後にといろいろな説がありますが、結論を言えば食べたいものを食べたい順に頼んで構いません。
ただ、巻物や味噌汁は後半以降にいただくなど緩い慣習はあります。
お寿司屋さんのカウンターで気をつけたいのは“リズム”です。板前さんとのコミュニケーションが大事です。板前さんは、私たちだけを相手しているわけではありません。何人かのお客さんを担当しています。ですから注文のタイミングも、板前さんが忙しくなさそうなときを見計らいたいですね。
自分たちの隣のお客さんが注文をした際に『私も同じものをください』と便乗するのも悪くありません。本来ならばあまりよいマナーとされるものではありませんが、お寿司屋さんのカウンターでは1回くらいは許されるものかと思います。
板前さんにとって、同じネタをまとめて握れたほうが効率がよいのは間違いありませんから」
お店や板前さんに敬意を持った振る舞いを
「よくないのは、出されたお寿司を食べずにそのままつけ台の上に置いておく行為です。お寿司はどんどん乾燥していきます。出されてから時間がたってしまうと味も落ちてしまいますし、早く食べるのは握ってくれた板前さんへの礼儀です。
次のネタを注文するタイミングは、板前さんが『次はいかがしますか?』と合図を送ってくれたり、聞いてもらえますから、そのときに注文します。1貫ずつよりも、一度に2、3貫頼んだほうがオペレーションもスムーズです。
板前さんの手が空いていて、お客さんのつけ台にお寿司が載っていない状態は、お寿司屋さんにとって『売上にならない』時間になってしまいますから、それを避ける気持ちを持つことが大切です。
テーブルでいただくときも、お店の手間暇を考えて、最低でも3、4種類のネタを一度に注文するのがスマートです。また、多少つくるのに時間のかかる焼き物や潮汁などは、早めに注文しておくといったことができると、上客として扱ってもらえるでしょう」
寿司屋の大将はなぜ偉そうなのか?
「『高級寿司店の大将が怖い』という声をよく聞きます。話しかけづらかったり、的外れなことを言ったら怒られるのではないかと思わせるような雰囲気の人もいます。お寿司屋さんや、ラーメン屋さんなどにそういう感じの大将がよくいますね。
カウンターは、お客さんとの距離がとても近いです。その接客をやるような人は、感じは悪くても根は悪くない人のことがほとんどです。
私はカウンターに座っていて、大将は立っていますから視線は上からになります。その視線で腕を組んで見られていたら、緊張もします。
つい『なんでそんなに見てらっしゃるんですか?』と聞きました。すると、『次のものをお出しするために食べる速度や食べっぷりを見計らっています』と返ってきましたが、それにしても威圧感がありすぎです(笑)。
私が『腕を組むのはやめたほうがいいですよ』と言いましたところ、それはしなくなりましたが、悪気はないけれども言い方がぶっきらぼうだったり、誤解されるような行動を取るお寿司屋さんは多いですね。
そのお店ではその後も『中トロください』と言ったら『トロは3貫までにしてください!』と(笑)。夜のお客様のための材料を確保しておきたいというのがその理由だそうですが、『ランチ客より夜の客が優先』とはっきりおっしゃっていました。
それぞれのお店にコンセプトがあります。ワイワイ盛り上がってほしいというお店もあれば、『静かに寿司を味わってほしい』がコンセプトのお店もあります。このお店のコンセプトは何かを知り、自分に居心地がいいと思えばそのお店にまた行けばいいのです。
『この店がひどい』と悪口を言うような人は、そのお店のコンセプトを理解できていないお客である可能性が高いです。
お店に対して緊張したり身構えることなく、お店のことを考えた振る舞いができてさえいれば、お店に一目置かれるお客になれますよ」
※2017年9月5日 更新