“肉おじさん”の教える本当にうまい肉②

 肉好きの間で有名な、日本最大級の肉イベント「肉フェス」で4回連続総合優勝を果たした「格之進」の経営者インタビュー後半。
 前半記事 “肉おじさん”の教える本当にうまい肉①

牛の生産から小売りまですべて関わりたい

 千葉氏が飲食店を始めたのは、どういうきっかけだったのだろうか。
「私は大学卒業後、フィルムメーカーに勤務しましたが、いずれ自分で事業を起こそうと思っていました。いわての地元の生産者は、いうなればみな経営者であり、そうした環境で育った私も自然と『いつか社長になるんだ』と思っていました。

 私の実家は『馬喰郎(家畜商)』として牛を育てる仕事をしていて、牛の仕事に休みがないこと、旅行にも行けないことをよく知っていましたから、『牛の仕事だけはするまい』と思っていました(笑)。

 しかし、『入った企業で経営者になるには、どう少なく見積もってもあと20年はかかるな』と思いながら、盆休みに東京から帰省した際、実家の牛を見ていたとき、閃いたのです。『うちは原料メーカーなのだから、牛を商品に垂直統合経営ができるじゃないか』と。

 また、こうも思っていました。
『一生懸命育てた牛なのに、生産者本人が扱っている商品の値段を自分で決められないのはおかしい』と。

 いろいろ考えた末、私は脱サラし、故郷の一関で焼肉店を始めました。オープンしたのは、実家が扱う、兄の牧場の牛のお肉を一頭単位で、生産から小売りまで関わるお店です。


格之進の名物の1つ、 岩手産素材の塩麹を使ったハンバーグ
 その後は兄の牧場以外にも、地元いわての牛を中心に取り扱うようになり、独自の熟成工程を施し「門崎熟成肉」というブランドを確立しました。

 思いを込めた生産者の作ったお肉の持つ付加価値を最大限に発揮できるよう提携し、“生産者が商品の値段を自分で決められる取引”を実現したのです。

 東京に出店したのは、2007年のこと。東京のトレンドを教えてくれている人から『東京では最近、和牛の一頭買いのお店が流行っている』『希少部位が人気』といったことを聞かされたのですが、『そんなの普通のこと。一頭買いも希少部位も、格之進では岩手で何年も前からやっているよ』というのが私の実感だったんです。

『自分がやってきた牛への情熱や地方の魅力の発信は、拡散力・情報の吸収力の強い東京で示していくことに、非常に強い意義がある』
 そのことに気が付いたので、東京に進出することにしました」

目指すのは食を通じた未来への再投資

「生産者は“思想家”です。どんな思いをもってその牛を育ててきたか、それをくみ取り、皿の上に表現し、伝える、それが私の使命です。
 そしてお客様にそれを体感していただく。

 体感していただき、お客様をどんどん巻き込む。
 生産者たちのストーリーを知って、ファンになっていただくのです。


一関産の野菜を使ったサラダ
 すると、みなさんがまるで自分のことのように宣伝してくださるんですね。

 生産者の思いの詰まった肉や野菜を食べた、おいしいとリアルやSNSで拡散してくださる。

 うまいもん!まるごといちのせきの日をきっかけに一関に行った、という方も500人を超えました。

 そんなうまいもんをつくっている生産者の人口は、今後急激に減っていくことが予想されます。

 現在、一関で農業などの一次産業に関わる人の平均年齢は75歳です。もうあと数年しか続けられない人も多くいます。

 私の父の代と比べると、地方の労働人口は大きく減少し、かつての20分の1程度まで落ち込みました。

 農業機械の発達や技術の発展等で、ある程度は人口減をカバーできるかもしれません。ですが、これからの世代は私や父の代のように農業に慣れていないでしょうから、小さなころから畑仕事を手伝っていた人たちのようには働けないでしょう。
 自然と生産性は低下してしまうのです。


地元では使われていなかった料理にもする

 生産が低下すると、農家が手をかけて一生懸命つくったものが手に入らなくなってしまいます。

 高くなるだけならまだ何とかなりますが、つくり手がいなくなればそもそもが存在しなくなってしまうのです。

 私が行っているのは『消費を通じた未来への再投資』飲食店と消費者が、連携して生産者を守ることです。
 生産者がきちんと儲かること。儲かれば自然と後継者は現れるものです。そのモデルを構築していきたいと思っています。

 今は私の故郷である一関から始めていますが、一関、岩手県で充分にその役割を果たすことができたならば、日本全国の思いを持ったつくり手を支援する活動をしていきたいですね」


地元食材に新たな可能性を提示
 8月1日にオープンした新店「格之進Neuf(カクノシン ヌッフ)」は、肉にとどまらず、“つくり手支援”という千葉氏の思いを詰め込んだお店となる。

“肉屋の「シャルキュトリー」と「塊焼き」を、「岩手食財」と共に愉しむ”というコンセプトでこのたびオープンした。

 早くも注目を集める店舗になっており、こちらの展開もますます楽しみである。

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