「課税の公平性」というように、税金に関する制度は公平とされているが、その判断基準は属人的で、判断基準は専門家でも分かれるケースも多い。
税務調査は、その最たるものだ。「この支払いが経費になるか、ならないか」「追加の支払いがあるかどうか」が、その調査官の考えに基づく判断や、調査時の経営者や税理士と調査官とのやりとりで決まることもよくあるからだ。
富裕層にとって税務調査が怖い理由
特に富裕層は、税務調査が入りやすい。納税額が大きいことに加えて「資産家の○○氏が申告漏れ」といった報道がされることで「税務署はちゃんと見ている。ごまかそうとしてもバレる。税金はちゃんと払わないと罰がある」という印象を与えることができる。
そのような見せしめの意味でも、富裕層には税務調査が入りやすく、また追徴課税など「報道受け」しそうなものが狙われる傾向にある。
税務調査がやっかいなのは、税金をごまかしたわけではなくても、見解の違いで追徴等が課されることだ。
本人や会社に悪気はなくとも、どこかの書類不備等が発生する可能性はある。
また、仮に申告漏れが報道されるようなことがあった場合、書類不備等が原因の故意でないものだったとしても、まるで脱税を企図したかのような印象を与えかねない。
加算税を含む追徴課税は金銭的に痛いが、イメージが損傷するのは別の意味で痛い。
パナマ文書問題の発覚後、税務調査がよく行われるようになった。国税庁が特に目を光らせているのが、海外送金の記録だ。「お金は国内で循環させてほしい」と考えている日本政府にとって、海外に巨額のマネーを送ることはそもそも喜ばしいことではない。合法なことであっても、その分野に関してできるだけ税金を取りたいと考えている。
秋に富裕層向け税務調査が多い理由
税務調査は年中行われているものだが、富裕層を対象とした税務調査は秋に行われることが多い。
理由は、海外の会社は9月が期のスタートのことが多く、お金の動きが活発になるからだ。
9~11月に行われる税務調査が多いという。
富裕層が税務調査で特に注意すべきは、先述の海外送金についての記録、さらに具体的に言うと海外のリゾートマンション購入に関する部分だ。
海外とのやりとりは主に英語が使われるうえ、国により商慣習が異なったりする結果、調査官には「書類不備」と判断されるケースがとても多いという。間に入った会社がちゃんとしたところだとしても、担当者が実務経験の浅い人だったりした結果、漏れ・抜けが生じることはよくある。
書類不備等で説明や証明が曖昧だったりすると、たとえば事業に必要と判断して購入したマンションであったとしても「事業に必要と思われませんので、このマンションは経費として認められません」と言われる(否認される)可能性もある。
そうなれば税金面に関して言えば、購入の効果はゼロどころか追徴課税等でマイナスだ。
パターンを知り、その部分を中心に対策を打とう
税務調査は「パターン」である程度判断でき、対策も打てるという。たとえば、海外のマンションを購入した記録があれば、調査官はそこを調査しに来る。目を皿のようにして書類を調査すれば、何かしら不備を見つけることができてもおかしくない。
その部分に関しては、マンション購入の際に関わった会社に再度チェックを依頼する、税理士や弁護士に問題がないかをよくよく確認してもらうなどで、実体に即した対策を取ることができる。
これはほかの分野においても言えることだ。
たとえば、開業医の歯科医であれば、税務調査で調査官が見るポイントはほとんど決まっているという。歯の治療をした結果、金歯や銀歯などそれまで歯の詰めものとして使われていた金属を取り除くことがよくある。
それらの金属は販売が可能で、多くの歯科医院が扱う業者に売却している。
調査官が見るのはそこだ。「金属を売却した金額の扱いはどうなっているか?」きちんと売上として計上していなければ、追徴課税がある。
理想は「税務調査をする必要がないかなと思われる」こと
調査官の税務署内での評価基準は、税務調査でいかに追徴を課すことができたか、新たな税金を得られたかという噂がある。
そのためか「税務調査では調査官にメリットがあるよう、少し追徴税を課されるくらい(いわゆるオミヤゲ)にしておくとよい関係が築ける」と信じている方も少なくないだろう。
それはとんだ間違いで、調査官にしてみれば「あそこは行くと必ず追徴を課せるからまた調査しよう」となり、その後も定期的な税務調査を招くことになる。
税務調査において一番よいのは「そもそも税務調査が入らない」ことだ。
税務調査とは「調査の必要がある(新たに税金をとれる)」と調査官が判断するから行われるところもあり、「調査が必要ない(行っても新たな税金はとれそうにない)」と判断されれば、調査になる可能性は軽減されるだろう。
次によいのが「調査がきても、きちんと説明し、納得して追徴ゼロで帰ってもらう」ことだ。調査の記録は引き継がれるから「調査はしても何も問題なかった」という信頼を得られれば「調査の必要がない」に変わることも十分ありえる。
税務調査対策とは、見方を変えれば「日頃から経営やお金の動きをきちんと管理できているか」でもある。
何も起きていないうちに、「セルフ税務調査」とでも言うべき対策を行い、急に調査がくることになってもあわてない、そして追徴も発生しないようにしておきたいものだ。