今年悪い意味で大いに取り上げられ、ここ最近は苦戦しているが、大御所のヘッジファンドマネジャーも紹介しよう。
ダニエル・オクのオクジフキャピタルマネジメントは、運用資産391億ドルの巨大ヘッジファンドだが、ここ最近よい評判を聞かない。
子会社が贈賄で有罪判決
オクジフは子会社がリビアの政府系ファンドからの投資と引き換えにアフリカの政府当局者に対し多額の賄賂を支払ったという疑惑を持たれ、アメリカ連邦当局の捜査を受けていた。
問題となっているのは同社がアフリカで資金提供して成立させた複雑な石油・鉱業取引で、ニューヨーク市ブルックリンの連邦検察や司法省、SECは、同社が賄賂と認識しつつコンゴ民主共和国やリビアの政府高官に金品を支払ったかを捜査した。
この事件に関して、ガボン共和国の元首相の息子であるサミュエル・メビアメ被告が、合弁事業がニジェールやギニア、チャドの鉱山権益を獲得するために贈賄を繰り返していた罪でブルックリンの連邦検察に逮捕され、起訴された。
この合弁会社の親会社にはヘッジファンドが含まれ、複数の関係者によるとこのヘッジファンドがオクジフだという。
5年に及ぶ捜査ののち、オクジフは有罪を認めることとなった。子会社に有罪を認めさせた上で、本体も訴追延期合意を結ぶことを受け入れた。
同社は制裁金に備えて4億ドル(約400億円)あまりを引き当てている。
これはつまり、子会社が罪を認めることで、本体はアメリカ当局の刑事訴追を免れ、今まで通りの営業が可能ということだ。
営業が可能とはいえ、有罪判決の代償は大きい。オクジフは2007年に上場しているが、株価は大きく下落し、投資家からの解約が相次いでいる。
オクジフの創業者、ダニエル・オクはゴールドマンサックスの出身で、ゴールドマンの名物マネジャーだったことからオクの独立後も同社とは良好な関係を築き、ゴールドマン従業員の確定拠出年金(401k)を運用するファンドを委託していた。
その委託契約が、この度解除された。ゴールドマンはその理由を明らかにしておらず、「オクジフは長年にわたる力強いパートナーであり、我々は同社と幅広い投資を引き続き行う」とのみコメントしているが、この度の贈賄が直接の原因であることは間違いないだろう。
また、同ファンドの過去12カ月の運用成績がマイナス6.9%と、運用の成績も芳しいものでなかったことも理由なのは間違いなさそうだ。
同ファンドは、2016年はすでに55億ドルの資金純流出に見舞われている。
資金流出の止まらないオクジフはほかにも様々な手を打って顧客引き留めに必死になっている。OZマスター、OZアジア、OZヨーロッパの各ファンドの手数料を25ベーシスポイント(bp、1bp=0.01%)ずつ引き下げる意向だ。
規制当局に提出された文書に従うと、オクジフは1.5%から2.5%の手数料を課している。ブルームバーグの取材に答えた関係者の1人は、投資額や投資期間によって手数料が分かれると述べた。
創業者は報酬ランキング入りの巨大ファンド
オクジフは先述のような理由もありここ最近は苦戦しているが、それまでは「とにかく安定性の高いファンド」だった。
ダニエル・オクの投資方法はイベント・ドリブン型、企業の合併、買収など大きな出来事がきっかけで変動する分野をメインにしている。
戦略は4つあり、買収アービトラージ、転換社債アービトラージ、イベント・ドリブン型リストラクチャリング、ディストレスクレジットだ。
これは言いかえれば、マーケットとの相関性があまりない分野でしっかり一定のリターンを出す、ということだ。
マーケットとの相関性が薄い分野に投資するために必要なのは、充分な統計分析であると考え、それらのプロを従える。
リターンは常に10%半ばを目指し、大勝ちは求めない。代わりにマイナスになってもいけない。
投資家も一度預けたお金は、最低でも2年は動かすことができない約束だ。じっくりと安定した利益を生み出せる運営を行っていくので、投資家にも忍耐強くなってもらうことを求める。
カリスマヘッジファンドマネジャーを置かず、メンバーの報酬は会社全体の利益に比例する。そのような方針ゆえ、メンバー同士のチームワークは非常によく、退職者をほとんど出さなかった。
オクジフのあり方は、生き馬の目を抜くような人の多いヘッジファンドの世界で、例外だったと言える。
オク自身も、強いカリスマ性で会社を引っ張っていくことを考えていない。会社自体を世界のトップにすることで、自分が関わらなくとも会社が存続することを目指してきた。意思決定者は必ずしも1人である必要はない、というのが彼の考えだ。
そのような方針だが、2015年までは非常に会社として好調だったため、2015年のヘッジファンドマネジャーの報酬ランキングで20位入り、その額は1.35億ドルを記録していた。
今年は大いにつまずき、また実際の運用成績も芳しくなかったオク。ヘッジファンドの世界で長年活躍し、投資家に大きな利益をもたらしてきたその手腕は、どこかで復活するのだろうか。
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