「すべては“わからない”から起こる」
世の中を騒がせている豊洲市場の移転問題。「担当者が専門家の意見を聞かなかったから」などの理由が様々言われている。
確かに、建物を建てるに当たり、果たしてその費用は適正か、その設備は必要かといったことは、専門家ではない担当者にはわからない部分も多い(だからこそ専門家にしっかり聞くことが大切なのだが)。
病院建設失敗の悲劇
豊洲の問題は、開業医にとって決して他人事ではない。開業医にとっての病院の建設や改修は、賭けでもある。
こんな失敗事例がある。
A医院の理事長は、病院の建築を、せっかくなのでと著名な建築家に依頼した。
上がってきた設計案は、奇抜なデザインや設備だらけ。
「ちゃんとした使いやすい建物になるのだろうか……」
不安がよぎったところにゼネコンから出てきた、その案を実現するための見積もりは、当初予算をはるかにオーバー。2倍に近かった。
「できるわけないだろう!」
病院建設計画は、基本設計から全面的に見直し。開院は当初予定よりも、半年延期することになってしまった。
進んでいくうち、ゼネコンの担当者が会いたいとやってきた。
「オリンピックに伴う建設ラッシュで資材価格が高騰していまして、あと1億円、予算を追加してもらえませんか?」
必要ということならばと、理事長は承諾したが、その後も担当者はやってくる。
「あと1億必要になりました」「この部分をご希望の通りに工事するなら、あと3000万必要です」
その都度許可しているうちに、予算は当初取り決めたよりもはるかにオーバーしてしまった。
C病院は逆に「予算は10億。絶対にオーバーしない」と決めていた。ゼネコンに総予算も伝え、決して超えないよう念を押した。
ゼネコンは工夫して予算に収めてくれたので、理事長は建設にゴーサインを出した。
完成した病院が稼働し始めて、理事長も現場の医師も、事務職員も、愕然とした。
「なんて使いにくい……」
どの設備も、実作業にまったくマッチしていない。いろいろなことで、以前よりも時間がかかるようになってしまった。しかも、換気設備が悪く、スタッフからクレームが多々寄せられた……。
ゼネコンは予算内に収めてはくれたが、いわゆる「安かろう、悪かろう」になっていたのだった。手抜き工事だったのではないか? とも思うが、問い合わせても「ちゃんとやりましたよ」と取りつく島もない。
病院建設を成功に導くコンストラクション・マネジメント
これらの悲劇は、冒頭で書いたとおり“わからない”から起こる。
病院の建設はそう頻繁に行うものではないゆえ、「以前はどうだった」と前例から判断することがなかなかできない。仮に前例があったとしても、それは数十年前のもので時代も周りの状況も変わりすぎている。
責任者はいても専門家ではないため、業者から見積もりをもらい、説明を受けてもそれが的確なのか、適切な判断を下すのは困難だ。
費用は安いほうがいいに決まっているが、削減を進めた結果役に立たない病院をつくっては本末転倒だ。
特に病院は複雑な設備も多々必要で、建設する側も病院のことに精通する人は少ない。
見積もりを取ろうにも、どの会社に依頼したらいいかわからない。
建設の失敗を防ぎ、関わる人が本当に使いやすい病院建設を、コストも削減し、かつ長年使い続けられるためのアドバイスをするのが「コンストラクション・マネジメント」という仕事だ。
耳慣れない名前だが、病院の建設を全面的にサポートする。
「この部分は実はなくても困らない」「この見積もりは高すぎる」といった、建設に関する詳細や見積もりのチェックなど、依頼主がわからない専門分野に関して専門家がアドバイスする。
多くの病院の建設にかかわってきたことから、コストを下げるために行ってきたいろいろなことの蓄積があり、それをノウハウ化してある。
コンストラクション・マネジメントをする会社のプラスPMは、この分野の第一人者だ。
プラスPMの代表取締役、木村讓二氏は元々、設計会社と建設会社に勤務。つまり建物をつくる側をしていた。
建設業は、価格設定などで不透明な部分が多い業界だ。
建設の仕様のなかに不要と思われる設備があるので指摘すると、建設会社から「これだけの大きなハコモノに関わるなら、うちも多少は儲けさせてもらわないと」と平然と言われることもあったという。
依頼主がわからないのをいいことに儲けようという業界の体質に嫌気が差し、独立し依頼主の本当に役立つ建設に関わることにした。
独立当初は、建設設計を受託するが、多くの医療法人が満足のいく病院を建設するサポートをするほうが需要があると気づき、大きく業務転換。コンストラクション・マネジメント業を始めた。
「コンストラクション・マネジメントを依頼するとその分費用がかかるのではないか?」と思われるが、実はプラスPMが関わることで建設のそもそものコストを大幅に削減できるため、支払いをしてもむしろ当初見積もりよりも安く済むという。
そして、単なるコストカッターではない。
ただコストを下げるだけであれば、仕上材料や設備の方式を極限まで抑えればいい。だが、病院はその後の使用が大切だ。
当初の費用が抑えられても、その後のメンテナンス費用が膨大では、費用はむしろかかってしまう。
ここはお金をかけておいたほうが、後々よいことには、適切なお金をかけることを提案する。
また、「理事長がこのようなお考えなら、それを実現できるのはこの会社です」というように、金額以外でのゼネコン選びもサポートする。
ゼネコンというと、一般人はテレビCMや広告を見たことがある、よその病院が頼んでいた、くらいしか選択肢がない。
プラスPMは医療法人や自治体などの病院建設アドバイスに関して多くの実績を持ち、数多くの病院に関わってきたことから、建設を行ったゼネコンとのつながりもしっかりある。
設計会社、ゼネコンはプラスPMが評価することで受注することにもつながり、いわば“ちゃんとやっているところ”に仕事がいく。
新築以外の改修なども行う。その際にプラスPMが依頼主と話し合うのは「何年持たせるか?」
10年持たせて、その間に資金を貯めて10年後に建て替えるのか、ほかも傷んでいるので建て替えは3年後か、など依頼主のビジョンに合わせて、工事範囲と投資金額は変わる。
ゼネコンに依頼しても「せっかくなので建て替えましょう」と言われるだけなので、それに比べると細かい対応ができる。
経営の視点でしっかりサポート
プラスPMが行うのは、建物の建設そのものにとどまらない。
現在その病院がどのくらい銀行の融資を受けていて、あとどのくらいの額を新たに融資してもらえるか、返済計画はどうなっているかなどから、適切な投資金額を計算することも行う。これでその病院は、投資の金額を決めることができる。
むしろ依頼主の病院から融資の相談を受けた銀行が「その返済計画は無理があるのではないか?」と感じ、プラスPMに「コンストラクション・マネジメントに入ってもらえますか?」と依頼が来ることも多いのだという。
ゼネコンが同じことを言っても、自分たちが儲けたいからの提案と勘繰られるが、中立の立場から言うので、依頼主にも受け入れられやすい。本気の提案であることが伝わるので、評判も上々だ。
プラスPMの社員は元病院専門の設計会社勤務や元ゼネコンの現場担当という人が多く、技術的なことを理解しているほか、社員にはビジネススクールで経営戦略やマネジメントについて学んでもらうなど、経営者の視点を身につけるよう指導をしている。
「経営者だったらどう考えるか」を持つことが、依頼主に最適な提案をできることにつながるのだ。
最初は「コンストラクション・マネジメント? あやしいんじゃないの?」という評価なのが、病院が完成したのちに「あなたがいないとこのような満足できる病院が完成しなかった」と言われることが多いという。そしてそれがやりがいでもあるという。
ある病院の理事長は、最初は建物の一部がガラス張りの、現代的でスタイリッシュな建物をつくろうと考えていた。
プラスPMの社員に「ガラス張りは外の温度の影響を受けやすいので、冷暖房費がかさみますよ。また、病院ですからあまり外から見えるつくりを好まない患者さんもいらっしゃるのではないですか?」と言われ、普通の外壁に変えた。
完成した建物は患者からの評判がよく、その後のことまで考えたプロの提案に感謝している。