ブルームバーグが「アメリカのビジネススクールランキング」を発表した。
1000人以上の採用担当者、1万5000人以上の在校生、9000以上の最近の卒業生からの評価を基準に作成されたもので、上位2校は相変わらずの強さとなった。
1.ハーバード・ビジネス・スクール
2.スタンフォード大学ビジネススクール
3.デューク大学フュークアスクールオブビジネス
4.シカゴ大学ブーススクールオブビジネス
5.ダートマス大学タックスクールオブビジネス
6.ペンシルバニア大学ウォートンスクール
7.マサチューセッツ工科大学スローンスクールオブマネジメント
8.ライス大学ジョーンズスクールオブビジネス
9.ノースウェスタン大学ケロッグスクールオブマネジメント
10.カリフォルニア大学バークレー校ハーススクールオブビジネス
「卒業生が活躍」よりも「優秀な人が入ってくる」
ビジネススクールで学び、MBA(Master of Business Administrationの略で、日本語では経営学修士)を取得することで高い収入を得ることができるとされている、エリート中のエリートを養成するところだ。
ブルームバーグによると、ノースウェスタン大学ケロッグスクールオブマネジメントで学び始めた学生の、入学前の年間の稼ぎの平均は8万ドルだった。
2年間の学費やその他の費用と、学生が2年間働いたとした分の収入も加えると、ビジネススクールに通うことでかかる費用は35万ドル以上になる。
ハーバードの学生もそれまでに年間9万ドルは稼いでおり、入学で失われる収入も加えると、学習のコストは38万ドル以上だ。
日本でも「東京大学に子どもを入学させられる親は高収入」と言われているのと同様に「ビジネススクールに集まるのは、高い授業料を課すビジネススクールに入学できるくらい、そもそもの稼ぎのある人」とも言える。
日本から行っている人の多くも、企業から派遣されているエリートが中心だ。
MBAは机上の空論?
そこまでの費用と時間をかけるものでありながら、MBA不要論も出てきている。
早稲田大学ビジネススクールの教授として、13年間教鞭を執ったローランド・ベルガー日本法人会長の遠藤功氏は、「日本人にMBAはいらない」と主張する。
遠藤氏によると、卒業生にMBAが授与されるビジネススクールで教えているのは、「分析至上主義」を助長する理論やフレームワーク、ツールばかりだという。それらは経営の本質ではなく、経営を単純化させる「薄っぺらいテクニック」ばかりが強調される、そのことを氏は問題視しているのだ。
ビジネススクールで薄っぺらいテクニックばかりを学んだ結果生まれるのは、机上の空論ばかりを使い回す頭でっかちなビジネスパーソンだ。知識は豊富だが、どれも既存のものの受け売り。経験に乏しい人間が上っ面なテクニックだけを知ったところで、テクニックに操られ、暴走してしまう。
遠藤氏は、そうした人たちによって引き起こされたのがリーマン・ショックという金融資本主義の暴走であったとし、それを苦い教訓にするべきだと語る。
目指すのは「ビジネススクールでは教えてもらえない授業」
実はビジネススクールのトップに位置するハーバード・ビジネス・スクールも、同様のジレンマを抱えていた。
一時期、ハーバードの卒業生がビジネスにおいて不正を働いたとして逮捕されるなどの事件が相次ぎ「あの学校は一体何を教えているのか!」と批判の集中した時期があったのだ。
教えることと実際のビジネスのかい離、これは大きな課題となっていた。
ハーバードはその後、教育方針を大きく変換した。理論よりも現場、実践を重視する方向へと舵を切ったのだ。
現在ハーバードが力を入れている授業の1つが、日本の新幹線を清掃する会社、「TESSEI(テッセイ)」を取り上げた授業だ。
新幹線の清掃現場は「きつい、汚い、危険」のいわゆる「3K職場」だ。ピーク時には東京駅に到着する新幹線の車両を、わずか7分で清掃しなければならない。その仕事内容はハードで、進んでやりたいと思う人もおらず現場のモチベーションは低い、事故も多く優秀な人材は集まらない職場だった。
その職場に赴任してきたのが、JRの本社に長年勤務してきた矢部輝夫氏だった。矢部氏自身も赴任先を告げられた当初は「あんなところに行くのか……」と思ったという。
だがそのあと「どうせ行くなら、楽しい職場にしたい!」と考え、様々な改革を行っていった。
矢部氏の指導ののち、テッセイは現場のモチベーションが非常に高く、社員は皆、生き生きと働く会社に変わった。
今では多くの企業が視察に訪れ、日本国内のみならずハーバードも注目する存在になったのだ。
学生たちはビジネススクールで学んだ理論をもとに、様々な答えを考える。しかし、誰1人正解しない。
教授が答えを言うと、学生たちは皆驚き、「ビジネススクールでは学べないことを学べた喜び」を口にするという(矢部氏が何をしたかは、矢部氏の著書『奇跡の職場』に詳しい)。