原因不明の不調は「舌」が原因だった

 富裕層はデンタルIQが高く、歯に非常に高い関心を払い、投資もしていることを前回記事で書いた。
「お金持ちかは歯を見ればわかる」

 歯は人の健康に、非常に大きな役割を果たしている。
 そこで、歯が健康に大きな影響を与えているもう1つの例を紹介したい。
 近年様々な研究で、原因不明の体の不調を、歯の調整で改善できることがわかってきたという。


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「不定愁訴(ふていしゅうそ)」という言葉を聞いたことがあるだろうか?
 病院で検査をしても、原因となる病気が特に発見されない体調不良や体の痛みのことだ。具体的には、慢性的な疲労感、無気力、偏頭痛、首や肩の凝り、腰痛、胃痛、不眠など、症状も様々だ。

 今までは原因がわからないことから、医者に症状を訴えても治療をするすべがなかったが、それらの症状を治療する方法として、新たに浮かび上がってきたのが、歯を調整する、いわゆる「噛み合わせ治療」だ。

 たかが“噛み合わせ”と馬鹿にしてはいけない。
 そもそも、歯の噛み合わせが悪い状態とは、歯の表面の山と谷がうまくフィットしていない状態だ。
 それでは、噛むときに力が入らない。なんとか噛んでも、噛む対象にしっかり力が加わらず、うまく噛めない。
 そして、噛むとき以外にも、いろいろなところに不調が起こる。

 噛み合わせがよければ歯は口の中でいい場所に収まっているが、噛み合わせが悪いのは、常に歯が不安定な状態にあるということだ。
 実はそのような不安定な状態、どこか無理をしている体勢が、体のほかの部分の不調となって現れる。
 寝ているときの歯ぎしりも、7割以上は噛み合わせが悪いことで起こるという。残りはストレスだ。

 噛み合わせが悪いことの不調は、特に女性に多く現れる。
 女性は筋肉が少なく、敏感だからだという。
 噛み合わせが悪いと、その影響が直接体に出やすくなるのだ。
 男性はその逆で、肩こりがあっても自覚症状としては、出にくい人が多い。

舌があごを動かしている

 さて、噛み合わせを悪くする原因は、実は歯ではないと言ったならば、どう思われるだろうか。
「何を言っているのだ?」と思われるかもしれない。
 しかし、「噛み合わせを決めているのは歯ではなく、実は舌なんです」
 そう唱えるのは、安藤正之医師だ。
 安藤医師は語る。
「この記事を読んでいるみなさんも想像してみてください。今この記事を『歯をギリギリと食いしばって読んでいる』という方はいらっしゃいますか?
 いらっしゃらないでしょう?(笑)
 実は、上の歯と下の歯は、普段は少し離れています。これを安静時の空隙と言い、世界平均で2ミリ空いています。


通常、歯と歯の間は2mmほど空いている ©2015 ANDOU DENTAL CLINIC, All Rights Reserved.

 そもそも、私たち歯の歯が『カチカチと当たる時』はどんなときでしょうか?
 そう、食事のときですね。
 もし、1秒に1回噛むとするならば、現代人の食事の咀嚼回数はおよそ600回ですから、1回の食事で歯が当たっている時間は約10分。
 それが朝昼晩の3回で、一日計30分程度だと思われます。
 残りの23時間30分は、下の歯は上の歯と接触せず、あごはブラリとしています。

 上の歯は頭の骨に固定されていますが、下の歯とアゴは、筋肉でつりさげられているだけ。
 ブランコみたいな感じですね。
 その時、下のアゴの位置を決めるのは何だと思われますか?
 実は、それが“舌”なのです。

 ではなぜ舌が下アゴの位置をずらしているのか? それは「舌が歯を怖がっている」からです。
 現代人のアゴは、ここ50年で非常に小さくなりました。
 原因は、噛まなくなったからです。
 卑弥呼の時代は1回の食事で3000回も噛んでいて、食事時間は1時間もかかったとされますが、現代は前述したように、600回程度に減りました。
 それによりあごが細くなり、その中の歯の並びのアーチが小さくなったのです。


正しい位置にある歯 ©2015 ANDOU DENTAL CLINIC, All Rights Reserved.

 舌のお部屋である「舌房」も、部屋に例えるならば 3LDKではなく、1DKぐらいの人が多くなりました。
 そうすると、歯が舌に当たって、舌に歯の跡がくっきりとついてきます。
 常に歯が舌をこすっていると、その場所に傷がついて、口内炎を繰り返し、その結果舌癌になるのを避けるため、必死で邪魔な歯をよけているのです。

舌は歯を嫌がり動く ©2015 ANDOU DENTAL CLINIC, All Rights Reserved.

 その結果、舌につられて、下のアゴも左にずれるのです。

舌に引っ張られ、下あごも動くことで噛み合わせが悪くなり、原因不明の不調を呼び起こす ©2015 ANDOU DENTAL CLINIC, All Rights Reserved.

 また、噛み合わせが悪いと“滑舌の悪さ”にもつながります。
 あるお笑い芸人の方の歯を見たところ、ひどい乱杭歯で、『これではきちんとしゃべるのも難しいだろうな』とすぐにわかりました。実際に、舞台でよく“噛んで”いたので、『よくしゃべる仕事を続けられたものだ』と驚きましたが、発声の邪魔をしている歯を調整したところ、その後はほとんど噛まなくなりました。

 他にも舌が歯に当たる原因は、以下のようなものがあります。
 いずれも、噛む回数が減ったことにより起こったことと考えられています。

・アゴの縮小… 咀嚼回数は縄文時代の7分の1に減り、アゴが小さくなっています
・歯の尖り… 堅い物を食べないので歯がすり減りにくくなっています
・歯の舌側への倒れ込み…噛まなくなったことにより、歯が舌側へ倒れこんで舌房(部屋)をより狭くさせる」

治療方法は2つ

 舌があごを引っ張る結果、噛み合わせを悪くすることになっていたとは驚きだが、それが現代人に原因不明の不調を呼び起こしていたのだ。

 安藤医師は続ける。
「舌が原因で、噛み合わせが悪くなったとはいえ、直ちに命にかかわる重病が引き起こされることはありません。しかし、24時間365日、常に体の不調や不快感に悩まされることになります。歯と下のアゴは、取り外しが不可能だからです」

 思わず自分の口の中を確認したくなったが、ではどうすればその不調を取り除くことができるのだろうか。

「口の中に舌のスペースがないケースでの治療法は、大きく分けて2つあります。1つは歯科矯正です。
 これで舌の部屋の広さを、かなり改善することができます。
 しかし、40代以降はアゴの骨が固くなっており、歯を動かすことにより、体の侵襲(痛めること)が大きくなることがあります。
 歯周病があれば矯正そのものが適応外になります。
 また、矯正ができたとしても、現代人はアゴ全体が小さいため、歯をきれいに並べても不定愁訴の何割かは残ってしまいます」

 では、矯正ができない人はどうすればいいのか?

「2つ目の方法は、歯のエナメル質を0.5ミリ程度削って、舌に刺激を与えている部分を緩和する方法です。
 私の専門はこちらです。
 歯を削る、というと怖く感じる人がいるかもしれませんが、痛みはまったくと言ってよいほどありません。エナメル質には神経がないからです。
 また、エナメル質は厚みが1.5ミリほどあるので、0.5ミリの調整は、全く問題がないのです。そこから虫歯になることもありません。
というのも、本来は、よく噛んでいると歯は自然に削れていくはずのものなのです。
 それが、咀嚼不足により削れていないために体の不調が出ているのです。
 なので、歯科医師が自然な状態に戻るお手伝いをしている、そうお考えください。
 歯科矯正治療と違い、治療回数は3回と比較的短期間で終わります。
 当院でも必要がある人は、歯科矯正をしたのち、噛み合わせ治療をします」

 これらの治療は保険の対象外ゆえ、安くない費用がかかるが、先ほどのデータの通り、治療を受けた人からは「長年の原因不明の不調が改善された」という声が多数寄せられている。
 ところで、安藤医師は昔から舌の重要性に気づいていたのだろうか?

「私も、開業して10数年間は、他の歯科医と同じく、歯の調整のみをしていましたが、幸運にも、舌の重要性に気づけました。それ以後、治療の改善率は大幅に向上したのです。
 舌を考慮することにより、個人差はありますが、体調不良を訴えていた人が、次々と改善していったのです。
 私が行ったのは、歯の噛み合わせを整え、舌のスペースをつくっただけです。
 ほかの治療は一切ありません。

 今まで25年以上にわたって1000人以上の患者さんを治療してきましたが、「舌」が全身に及ぼす影響の強さを実感しています。
 以下に、安藤歯科クリニックで治療した患者さんのデータの中から、症状別の改善率の一部をご紹介します。
「舌の位置が正常になったことで、不調を訴えていた人のうちこれだけの割合で不調がなくなった」という率です。

・偏頭痛88.6%
・歯ぎしり88.3%
・口が開きにくい85.6%
・生理痛83.3%
・背中の痛み80.8%
・首のコリ79.5%
・腰痛74.4%

 これ以外にも、「歯とは関係ないだろう」と思うような症状も改善しており、「歯と体は強固につながっている」ことに感嘆せざるを得ません。

 この治療は多くの方が受けられています。一部上場企業のトップの多くの方々や『篤姫』『江』などの大河ドラマで著名な脚本家の田渕久美子さんなどが受診されたほか、元爆風スランプのサンプラザ中野くんなどが受けられています。サンプラザ中野くんは歌手だけあり、発声のために歯にものすごく気を使っていました。

 舌が引き起こす不調は、いわば現代人だけの現代病と言えます。固いものを噛み、顎が発達していて、栄養も足りなかった古代人には無縁のものだからです。

 昔ながらの食事には歯によいものたくさんありますが、だからといって「卑弥呼の時代の暮らしをしよう」と思っても無理があります。今から卑弥呼の時代の食事をしたら、あごは無理な力がかかってボロボロになってしまいます。

 全てがひ弱になっている現代人の場合、歯科医が舌の調整に関わることで、現代病のかなりの部分が改善することができる。歯科の分野でも、これから新たな医療の幕が開ける。私はそう考えています」

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