クレディ・スイスはこのたび、世界の富裕層の動向をまとめたレポート「グローバルウェルスレポート2016」を発表した。
同レポートによると、日本の100万ドル以上の資産を持つ富裕層の数は、2015年の208万8000人から73万8000人増加し、282万6000人になったという。
同レポートの2015年版では、日本の富裕層は2020年には359万人に達する見込みであるとしている。
富裕層の数が最も多いのはアメリカで、1355万4000人となり、全富裕層人口の41%に匹敵する。
日本は2番目に富裕層の多い国にランク入りし、全富裕層人口における割合は9%となる。
昨年まではイギリスが2位だったが、今年その数を40万人以上減らし、日本が増加したこともあり逆転した。
富裕層人口のランキングと人数、全富裕層人口における割合は以下の通りだ。
1位 アメリカ 1355万4000人(41%)
2位 日本 282万6000人(9%)
3位 イギリス 222万5000人(7%)
4位 ドイツ 163万7000人(5%)
5位 フランス 161万7000人(5%)
6位 中国 159万人(5%)
7位 イタリア 113万2000人(3%)
8位 カナダ 111万7000人(3%)
9位 オーストラリア 106万人(3%)
10位 スイス 71万6000人(2%)
日本の富裕層人口増加は「景気回復」「格差の拡大」ではない
日本で富裕層の数が増えているのは間違いないが、報道されているような「海外に資産を逃がすなど税金逃れをした結果貯め込んでいる人が増えた」とか、多くの人がイメージする「日本にもアメリカのトランプ次期大統領のような、ひと山当てたような金持ちが増えた」わけではない。
日本の富裕層増加にはいくつか理由があり、そこには「お金持ち」でイメージされる人たちとまったく異なる、別次元の富裕層の実態がある。
日本の富裕層人口増加のごく単純な理由が、「ここしばらく円高が続いていた」ことがある。グローバルウエルスレポートが基準としている通貨はアメリカドルである。円高ドル安になれば、相対的に日本人の総資産額は増える。
同レポートでも「日本の富裕層人口増加の理由は為替レートによるもののみである」と明記されている。
ほかに考えられる理由としては、日経平均株価が好調なこともあり、「株長者」は堅調に資産を増やしていることも挙げられるだろう。
「庶民なお金持ち」が増加傾向
日本では、本人に富裕層という自覚はなく、気づいたら資産が1億円に達していたような人たちが増加している。
経済評論家の加谷珪一氏によると、「プチ富裕層」とでも呼ぶべき人々だ。
彼ら彼女らは、どのような存在か。本人は公務員、もしくは上場企業に勤務し、配偶者も公務員か上場企業に勤務、そして都内にある親のマンションや一戸建てなどの不動産を相続した。
彼ら彼女らが定年まで勤務すると、退職時には数千万円レベルの退職金が入る。それまでの貯金に加えて2人分の退職金、さらにすでに家はあるので相続した不動産を売却すれば、純金融資産1億円の達成だ。
日本は「退職金を合わせると1億円貯められていた、いわば“結果的に富裕層になっちゃった”」人が増えているのだ。
所有する資産額で計算すれば、彼ら彼女らは、間違いなく富裕層に入る。だが長年サラリーマン家庭ゆえ、毎月の決まった給料額でやりくりすることが習慣として身についており、その生活ぶりは堅実そのものだ。
「富裕層の生活ぶり」で想像される嗜好品、贅沢品とは全く無縁で、本人たちもおそらく自分たちのことを富裕層とは思っておらず「庶民」と認識しているだろう。
日本で大きな問題になっていることが、格差だ。アメリカにも格差は存在するが、アメリカの場合、富む人がもっと豊かになることで生じる格差。
一握りの大富豪がほぼすべての富を所有することが、果たしていいことかどうかは考える必要があるが、稼いだ結果の格差なので、いわば「上向きの格差」と言える。
日本は、所得が上の人の富は増えていない、むしろ減っているが、下の人の富がさらに減ってしまっている結果生まれた格差であり、「下向きの格差」とでも言える状態だ。
今回の富裕層人口増加も、原因は円高以外にほぼ存在しないため、「富裕層が増えた、景気がよくなった」「富める人がますます富むようになった」と考えるのは早計だ。