あなたも今から、払いすぎた相続税を取り戻せる!?

 相続税――富裕層が嫌いなもののアンケートを取ったならば、上位3位くらいには入る言葉ではないだろうか。
 昨今、相続税は高くなる一方で、巨額の相続税を支払うために、先祖代々の土地を手放すことになった、不動産や財産を整理した、遺族の間で争いが骨肉の「争族」を経験したという人も多い。
「あんな思いは、もうたくさんだ。だが相続は避けられない。今度はまたどのくらいの支払いになることか……」
 そんな不安を抱える富裕層は多い。

 知られていないことだが、相続税は払いすぎていた場合、取り戻すことが可能だ。
「税理士の計算に従って算出された金額を納めているのだから、金額は正確なはず。払いすぎなんてことがあるの?」
 そう思う人がほとんどだろう。このあと詳しく説明するが、結論を言うと、相続税を納めすぎたとして税金を取り戻している富裕層の数は相当いる。

「取り戻せるとはいっても、相続税を納めたのは相当前。今からは無理なんじゃ?」
 相続税の申告は、相続が開始した日(正確には相続開始があったことを知った日)の翌日から10カ月以内に行わなければならない。お通夜や葬式、初七日や四十九日などで慌ただしく過ごし、気づいたら期限が迫り大急ぎで遺産の額を把握、相続税額を計算してもらい申告、納税もなんとか済ませたという人も多い。

 相続税は、納めるまでの期限は短いが、納めたあとはある程度余裕がある。申告期限から5年以内に限り、納めた税額が多すぎた場合、取り戻すことができる。これを「更正の請求」と言う。

どのくらい取り戻せる? 相続税の専門家に頼めば、高額の相続税還付も普通

「5年以内ならば返ってくる!? うちの場合はいくら取り戻せるの?」
 俄然やる気を出した人もいるだろう。一般社団法人相続終活専門士協会代表理事の江幡吉昭氏が扱ったケースを見てみよう。

 東京近郊で代々続く地主のAさんは、ビルや賃貸マンションのほか、駐車場など土地を多数所有。
 3年前に父親が亡くなったとき、2億円以上の相続税を払ったが、その後相続に詳しい専門家に相談し、アドバイスに従って「更正の請求」を行ったところ、1億円が還付された。

 ほかにも以下のようなものがある。

●ケース2:ファミリーカンパニーのオーナーにして地主
家族構成:長女、次女
主な資産:自社株と不動産(10カ所)

当初の相続税額:5億円
還付後の相続税額:4億3000万円(7000万円の還付)

●ケース3:地主
家族構成:母、長男、長女
主な資産:不動産 4カ所

当初の相続税額:5300万円
還付後の相続税額:3300万円(2000万円の還付)

●ケース4:地主
家族構成:長男、長女、次女
※4年前に父が亡くなり、相続税を相続人3人で支払った。
主な資産:土地など不動産 6カ所

当初の相続税額:6200万円
還付後の相続税額:5070万円(1130万円の還付)

 2014年に行われた相続税の申告は、過年分も含めて相続人の数は17万人。このうち、相続税を取り戻すことができたケースは1万552人にのぼる。減額された税額は合計で391億円、1人あたり370万円になる。

なぜ税理士により相続税額に差が出るのか?

 具体的な金額を見て、「うちも取り戻したい!」と思った方もいるだろう。一方で、こうも思った人もいるはずだ。
「そもそも、プロの税理士に頼んでいるのにどうしてこんなに金額に差がつくのか? 税金の計算なのだから、間違いがあってはいけないはずでは?」

 相続税を多く支払いすぎる人が犯す過ちが、「相続税について、顧問の税理士に相談する」ことだ。
 相続税を支払う対象になる人は、会社を経営しているか、資産管理会社などのプライベートカンパニーを所有していて、顧問税理士がいるものだ。相続が発生した際、その税理士に「普段の業務とは別で、相続税のことで相談したい」と話がいくことがほとんどだ。

 ここに落とし穴がある。税金の計算と一口に言っても、種類は様々だ。会社の経営に関する税金を専門にする人、個人を対象とする人など種類が分かれていて、得意分野も強みも異なる。
 相続税の計算は、専門性の高い業務なので相続税の専門家や土地の評価に精通している税理士ではないと、その評価を間違えてしまうことがよくある。
 要は「高く評価しすぎてしまう」のだ。

その土地の評価、もっと下げられます

 もう少し具体的に説明しよう。
 土地の値段は「路線価」で定められていて、基本的にその評価に基づいて相続税額も定められる。
 だが、相続税において土地の評価が減額されるケースが多々ある。大きく分けると以下の4つだ。

①いびつで使いにくい土地
「不整形地」と呼ばれ、最大で40%減額される。

②道路に接していないなどの不具合がある土地
 道路に接していない、接していても法律上の道路でない土地などは、建物が建てられないため、価値が大きく下がる。

③法律による特殊な制約がある土地
 土地の利用については、様々な法律が関係している。それにより、土地の利用に対して制約のかかるケースも少なくない。
 たとえば、都市部で前面道路の幅が4m未満の場合、建物を建て替える際に道路の中心線から2mのところまでセットバック(後退)しなければならないケースがある。そのような土地は、セットバックする部分の70%に当たる額が減額される。

④周辺環境に問題がある土地
 工場や墓場に隣接している、騒音や悪臭などの影響がある土地などは、利用価値が低下していると認められ、減額されることがある。

 これらの土地に減額が認められることは、不動産の相続税評価に慣れている人でなければ知らないことも多く、高い相続税の計算をしてしまう。
 そして多く税金を納めてもらった税務署は、「多いです」とは一言も言わない。

専門家でも間違える難しい減額対象の土地

 その他に土地の評価を大きく下げられる可能性があるものとして
①面積が500㎡以上(三大都市圏)の土地は「広大地」の評価が使えないかを確認する
 広大地とは、簡単に言うと「個人が住宅を建てるには広すぎて、マンションには狭すぎる。買い手がいるとしたならば建売業者くらい、しかも何区画かに造成して販売する場合、新たに道路や公園を設置するなどする必要のある土地」を指す。

 様々な制限があるために、建売業者も販売できるとしたら安くなってしまう。そのため相続税の評価でも減額が認められていて、50%以上減額されることも珍しくない。
 広大地については要件がかなり細かく設定されていて、その要件のすべてについてきちんと検討できる税理士は少ないので注意が必要だ。

②貸家や倉庫など賃貸用の建物が建っている土地は「貸家建付地」に当たるかを確認する
 アパートや賃貸マンション、貸しビル、倉庫など賃貸用建物のために利用されている宅地、言いかえれば所有する土地に賃貸用建物を建てて他人に貸している場合の土地、それが貸家建付地だ。貸家建付地の相続税における評価額は、次のように減額される。

貸家建付地の評価額=自用地としての価額(A)-(A×借地権割合×借家権割合×賃貸割合)

 貸家建付地の評価が難しいのは、「借地権割合」が地域により異なることや、計算式にある「賃貸割合」(どのくらい賃貸用に使われているか。別の人の所有物の場合含まれない)のほか、賃貸併用住宅のようなものはどこまで適用されるかなどだ。
 親が所有する土地に子どもがアパートを建てて貸しているなどの場合も、計算を複雑にする。

③「小規模宅地等の特例」を最大限活用できるかを確認する。適用できる場合、相続税対策として買い替えることも視野に入れる
 この特例は「被相続人や、被相続人と生活をともにする家族(生計同一親族)のマイホームや店舗、工場などの宅地について、一定の要件を満たした場合に評価額を80%または50%減額するというもので、大幅な相続税の減額につながる。

 簡単に言うと「親と暮らす、同族会社を経営する一家が、相続が発生して相続税の支払いで家や会社、工場などを手放すことになったら遺族の生活はどうなる、会社はどうなる」という前提で作られている特例だ。

 この特例は適用されれば強いが、国にしてみればあまり適用されると大幅な税収減にもつながるため、適用できる対象を限って条件を厳しくしているほか、条件そのものも頻繁に変わる。専門家でも間違えることがあるくらいだ。

相続税が還付される可能性が簡単にわかる方法

 相続税の対象となる土地の減額に関する手続きは、専門性が非常に高く、ケースバイケースであることも多いため、非常に手間がかかる。

 ここまで読んで「うちも還付されるかも」と考えた方も多いだろう。還付される可能性があるかどうかを見抜く、簡単な方法がある。
 それは「税理士は実際の土地を見たか?」だ。
 今までお伝えしたように、土地の評価は一律にできない部分が多々ある。
 そのため、正確に評価するためには、実際に見てみることが欠かせない。

 地図で見て把握できるような土地は間違えにくいものだが、実際に見てみると簡単に評価できない土地はたくさんある。

 ほかにも、工場が近くて悪臭がひどいなどは、工場は地図で把握できるが本当に悪臭がするかどうかまではわからない。
 地図でまったく把握できないケースでは、高圧線が土地の上を通っている場合などもある。
 そうなると路線価に基づいた一律の評価などできない。大幅に評価減、ひいては相続税が還付される可能性がある。

 このあたりは「相続税の専門」と言っている大手の税理士事務所でも間違いが発生し得るところだ。

 相続税の課税対象となる土地を税理士が見ていない場合、見てもらえる相続税専門の税理士に「セカンドオピニオン」を頼むのが効果的だ。
 顧問税理士も先述のような事情から、「相続税に関しては専門の税理士に頼むことにします」と言っても、嫌な顔はされるかもしれないが、1000万円単位でお金が戻ってくる方が大事ではないだろうか?

更正の請求を受ける手続きとスケジュール

 更正の請求は、相続税の申告期限から5年以内に限り行える。更正の請求をする際には「更正の請求書」のほか、更正の請求の理由となる「事実を証明する書類」が必要だ。具体的には「この土地の評価はそんなに高くない」ことを裏付ける資料やどのような考えに基づいてそう結論付けたかの情報などだ。

 税務署は更正の請求を受け付けたのち、数カ月かけて請求の内容を検討する。
 納税者の主張が認められれば「更正通知書」が送られてきて、還付金が指定の口座に振り込まれる。

相続税還付Q&A

Q:更正の請求は相続人全員の合意が必要ですか? まとめるだけでも大変そうなのですが……。
A:全員の合意は必要ありません。1人だけで請求することが可能です。
なお、そのような場合でも更正の請求が認められると、請求した相続人だけでなく、ほかの相続人が納めた相続税も減額されることになります。

Q:相続後に売却した土地の更正の請求はできますか?
A;相続後に土地を売却したり、賃貸に出したり、分筆していても構いません。相続の開始時点で土地の評価額がいくらになるかが問題です。その時点での評価について更正の請求を行い、それが認められれば相続税は還付されます。

Q:相続税の修正申告後でも更正の請求はできますか?
A:税務調査の結果、納税額が少ないとなった場合行われる手続きが「修正申告」これが行われたならば内容が確定し、原則としてあとから再調査や審査の請求はできないとされています。
しかし更正の請求は修正申告と別の手続きであるとされ、修正申告後でも、更正の請求をし、還付金を受けることが可能です。

Q:更正の請求が行われるのは土地に関するものがすべてですか?
A:土地に関するものが多いのは間違いありません。ほかにも同族会社の自社株の評価を間違えたことによる更正の請求もあります。
同族会社の株式は評価方法が難しく、場合によっては大きく評価減になることも多々あります。

参考文献

『500㎡以上の広い土地を引き継ぐ人のための得する相続』江幡吉昭著、アスコム

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