「日本にこんなワインがあったのか」~鳥居平物語~(3)

(第3回)「ヴィンテージワインとは」

経済ジャーナリスト 湯谷昇羊

 今から20年ほど前、私はある大手都市銀行の頭取室で取材をしていた。取材が終わって帰ろうとすると、頭取が「湯谷さん、これもらい物だけど私は飲まないから持っていきませんか」と1本のワインボトルを差し出した。折角の好意なので遠慮なくいただいて帰った。

頭取から授かったありがたいワインは「酢」

 そのワイン、頭取にプレゼントされたものだからさぞや高級ワインに違いない。欧州産で製造年もかなり古い。私はずっと大事に保管しておき、我が家の記念日に開栓することにした。どんな香りや味がするのだろう、いやがうえにも期待は高まった。しかし、2分もしないうちにその期待は見事に崩れ去った。不味くて飲めないのである。いわゆる酢になったワインだった。


 世界中のワインをスクールの教材としてテイスティングしている「自由が丘ワインスクール」の主宰者・永野寿子も同じような体験をしている。日本のある大手メーカーの長期熟成させたワインを、海外のワイン生産者に飲んでもらおうと開けたところ、すべてダメになっていたという。

 日本のワインは長期熟成には向いていない、そう思っていた永野があるとき、『鳥居平1968年甲州』を飲んで、そうした考えを一変させる感動に包まれた。

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