「サイボーグ」化する老人、「姥捨山」と化した病院

 90歳まで生きる日本人の割合は女性で46%(厚生労働省調べ)。2人に1人が90歳まで生きる計算だ。一方健康な日常を送ることが可能な期間を示す「健康寿命」は70歳程度であり、10年以上を介護や医療を受けることになる。医学の進歩で延命は可能になったが、終末期のライフプランニングが不可欠な時代になってきた。人間誰しもが通る終末期を如何にすれば幸せに迎える事が出来るのか。終末期医療の現状を通して、一医師が考える幸せな終末期の過ごし方、ひいては社会全体が進むべき方向をご紹介したい。             国立大学病院勤務医

1億総胃瘻の時代の幕開け? 中には年金狙いの延命も

 「あの時はこんな事になるなんて想定していませんでした」
 「咄嗟の出来事で後先の事を考える余裕なんてありませんでした」
 「今から思うと辛い思いをさせてしまったのではないかと」


 いずれも気管を切り開き、言葉を発する事さえ失った患者を抱えた家族から耳にする事の多いフレーズだ。

 動く事が出来ず2時間毎に身体の向きを変えてもらい、食べる事ができず胃にあけた穴(胃瘻)から栄養をとり、呼吸する事すらままならず喉に管を通す(気管切開)、そんな「サイボーグ化した」高齢者が日本には沢山いる。

 もちろん、健康に長生きする事は良い事に違いない。ただ果たしてこのように「生かされている」本人は本当に幸せであろうか。考えずにはいられない。

 「動けない、食べられない、でもまだ死ぬ気配がない」。筆者自身が在宅医療で訪問した時に実際に90代の女性が口にした言葉だ。今も忘れられずに脳裏に焼き付いて離れない。

 なかには医学の進歩を逆手にとり、全く見舞いにも来ない上に患者に苦痛を強いる延命を希望する家族も少ないながら存在する事も特記するに値する。

 「(より費用のかかる)老人ホームなどに転院するつもりはありません!」。年金よりも入院費が格段に安い事もあり年金目当ての延命を強いる家族がいるのが悲しいかな現実なのである。

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