「特許は会社のものへ」 転換か?

 政府は、社員の会社での発明特許を「社員のもの」とする特許法の規定を改め、無条件で「会社のもの」とする方針を固めた模様だ。背景には報奨金の高額化を恐れる経済界の強い要望があったとする見方が強いが、研究職の社員にとっては反対意見も出そうだ。ここで、これまでの日本の社員による発明対価の変遷を見ておく。


 会社で生まれた発明についての特許を受ける権利は、会社であなくその発明者にあたることは、特許法第29条で決められている。つまり場所が社内というだけで、会社は何の特許も受けることはできない。ただし、「職務発明」ということであれば、従業者の
許可を得なくても、会社はその発明を無償で実施することができる。特許法第35条第1項による。同3項では、職務発明でも譲渡によって相当の対価を支払うことになっている。

 この規定で、200億円の支払い命令が出たのが、青色発光ダイオード事件だ(東京地裁平成16年1月)。

 同年2月には、味の素事件(人工甘味料アスパルテームの新製法)で同様の結果が出た。社員に対して1億9935万円の支払いが命じられている。発明者の寄与貢献度が収益の中で高い割合を占めているということもあり、高額賠償金が認められた。最終的には東京高裁の控訴審で、1億5000万円で両者は和解している。

 また、同じ年の1月には、日立製作所の光ディスク事件では、東京高裁で1億6284万円の支払いを命じる判決が下されている。こちらも金額が一審判決よりも大幅な上乗せがなされている。

・青色発光ダイオード 200億円 日亜化学 ※8億4391万円で和解成立

・アスパルテーム 1億9935万円 味の素

・光ディスク装置 1億6533万円 日立製作所
(発明物、賠償額、企業名)

 ちなみに上記の3件は主任弁護士がすべて、升永英俊氏である。

 一方で、平成16年の法律改正前はいくらかでも出れば良い方で、訴えが認められないことも多々あった。次は認められず訴えを退けられた主なケースだ。

・プロカテロール 大塚製薬   平成15年11月

・電気泳動装置 アトー     平成15年8月

・細粒剤    ファイザー製薬 平成14年8月

・石油分解方法 コスモ石油 平成13年2月
(発明物、企業名、判決期日)

 「日経ビジネス」は2013年7月8日号に中村修二氏のインタビューがある。ひじょうに的を射ているため、一部を引用する。

 ―日本では、特許権の帰属を企業に移そうという動きが出ています。

 中村氏「こっちのシリコンバレーの金持ちを見ていたら特許権で稼げる金額なんてしれてますから。やはり発明者がベンチャーを作ることを考えた方がいいですよね」

 ―中村さんの裁判をきっかけに発明者が報われるようになったと思いますか。
 中村氏「なってないですよ。日本の技術者は最低最悪の待遇です。アメリカだと博士号を取って就職したら初任給は1000万円くらいもらえて、それからストックオプションがつく。日本とは全然違います。アメリカは理系社会、日本は文系社会。文系が金持ちの国っていうのは後進国ですよ。優秀な技術者がいるのに。見ていてかわいそうですよ」

 事は文系と理系の対立というだけではなく、理系が活躍できなければ新たな時代を切り拓くことは難しい。さて、方針の転換が検討されるとして、今後にどんな影響を与えるのだろうか。

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