不正招くフォルクスワーゲンの創業一族による終わらない戦争

 独自動車メーカー最大手フォルクスワーゲン(VW)が、ディーゼルエンジン車の排気ガスの規制を逃れるために不正を犯したことでドイツ経済の信用そのものを揺るがす騒動となっている。販売台数世界一の目的のためには不正も隠ぺい。こうした背景にあったものは、創業者一族であるポルシェ家とピエヒ家との主導権争いが尾を引いたものという見方もできる。現在、第三世代まで尾を引く両家の争いとはどのようなものか。


フェルディナント・ポルシェ氏(右から2人目)
 米環境保護局の発表によれば、VWは排ガス抑制装置を当局の検査時にのみ作動させる違法なソフトウエアを使用していたという。これにより、VWの車約1100万台に不正の恐れがあるという。目的は同社が弱い米国市場でディーゼル車のシェアを上げていくためのもの。

 もちろん、原因は一つに限定できるほど簡単なものではないし、米国の排気ガス規制、日本のハイブリッド車へのライバル意識など外的な環境要因はここでは一切触れていない。あえて内部の資本関係のみに焦点を絞っている。

 まず、VWは、ヒトラーにも重用されドイツ労働党の上級職でもあったポルシェ創業者フェルディナント・ポルシェが生みの親でもある。開発したVWビートルなどの権利金によって潤ったポルシェ家は力を持つようになった。そして、長男フェリー・ポルシェが家督を継いで、妹で長女のルイーゼが名門ピエヒ家に嫁ぎ両家が均等な関係の下にVWを所有することになったのだ。VW監査役会会長のフェルディナント・ピエヒ氏、ポルシェのヴォルフガング・ポルシェ監査役会会長は第三世代となる。

創業者  フェルディナント・ポルシェ
第二世代 フェリー・ポルシェ、ルイーゼ・ピエヒ
第三世代 ヴォルフガング・ポルシェ、フェルディナント・ピエヒ

 グループの株式保有の状況は次のようになっており、ポルシェSEを頂点にその傘下にVWがある。さらにその孫会社としてポルシェの事業会社であるAG、HDGの2社がある。ポルシェ、VWはどこまで辿っても両家のものでしかないのだが、この中において長らくの間、主導権を巡って争いが起きてきた。

ポルシェSE(ポルシェ・ピエヒ家が100%議決権保有)
   ↓
フォルクスワーゲン(ポルシェSEが51%保有)
   ↓
ポルシェAG、ポルシェホールディングス(VWが100%議決権保有)

 この上図のVWと、ポルシェの事業会社2社を巡る戦いの経過が次のとおりとなる。そもそも国営企業体であったために「フォルクスワーゲン法」という法律によって20%以上は買い増しできないという実質的な買収禁止の規定があったが、法律撤廃になる前後から株式争奪を巡って激しい戦いが繰り広げられることになる。

・2005年 ポルシェがVW株約20%を取得

・2007年 司法判断によってフォルクスワーゲン法が実質的に撤廃に

・2008年 ポルシェがVW株40%以上を取得。オプションなどを行使して約75%まで株式を買い増す方針だった

・2009年 ポルシェが業績悪化により資金繰りに行き詰まり、VWが逆にポルシェ株を取得し2社の経営統合が決定

・2012年 2社の経営統合が長引き、VWがポルシェを完全子会社化することで決着


フェルディナント・ピエヒ氏
 実はこの過程において、ある出来事が明らかにされている。独シュピーゲル紙によれば、ポルシェ・ピエヒ両家の議決権の割合は現在は、当初のようなフィフティーフィフティーの関係ではなくなっているのだという。一族内の金銭的な事情によって、ポルシェ家が過半数53%を占めているのだという。もちろん、外部には公表されていないために、はっきりとはわからないが、この微妙な力関係は両家のしこりとして残っているのかもしれない。

 それを表すような出来事が今春VW社内で起きている。

 VW監査役会会長のフェルディナント・ピエヒ氏が、マルティン・ウィンターコルン社長(今回の不祥事で引責辞任)の任期継続を巡って延長を望んでいないと報道されたのだ。だが、一方のポルシェ監査役会会長のヴォルフガング・ポルシェ氏は続投を支持したというのだ。インテリでビジネスマン肌のポルシェ氏と、私生活でやんちゃが過ぎた天才開発者のピエヒ氏は水と油とされ不仲と言われることもある。

 販売台数世界一という称号を得て、グループの経営主導権を握ったかに見えたピエヒ家だ。不正と虚飾に彩られた経営は、ポルシェ家に力を取り戻されるという以前に、世界的な信用を失墜したことになる。両家による主導権争いは終わらす時期に来ている。

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