2015年「上場ゴール」選手権優勝は?

 昨今、株式市場に多くの新興企業がIPO(新規株式上場)を果たしている。上場のために業績が作られて、その後は業績不振に陥り株価も低迷し、創業者、ベンチャーキャピタル、幹事会社だけが儲けるという「上場ゴール」という言葉をよく見かけるようにもなった。経済誌などでも一般的な用語として使われるようになっているが、まだ明確な定義自体は存在せず。売り出し額の大きさ、業績悪化(もしくは未達)、株価下落という要素を兼ね備えていればいいのか。2015年の上場株を振り返って、最も上場ゴールだった株がどこかを見てみたい。

 まず、日本取引所グループによると、東京証券取引所へのIPO数は次のとおりとなる。12年から毎年、増え続けてアベノミクスのご時世で多くの株がデビューを果たした。

2010年 22
2011年 36
2012年 46
2013年 54
2014年 77
2015年 95


 ただ、会社数が増えれば増えるほど、無理にゲタを履かせているのではないかというものが出てこないわけではない。今回の調査対象からは外れるが、2014年に東証マザーズに上場したゲーム会社のgumiは、上場からわずか3カ月も経たないうちに業績予想の下方修正を発表したことで投資家や市場関係者に失望を与えた。この時には上場ゴールという罵声がインターネット上でいっせいに浴びせられたことは記憶に新しい。

 同社の國光宏尚社長による「時価総額8兆円」という大風呂敷も、一気に失笑の的になった。投資家の間でも、上場ゴールに目を向けるきっかけを作ったことになる。

 では、2015年の上場ゴール選手権だが、マスコミやインターネット上で騒がれたのが、Gunosyならば、規模が大きすぎて騒がれなかったのがツバキ・ナカシマだろう。

・日本スキー場開発    日本駐車場開発 56万株 18億3904万円

・Gunosy      木村新司    210万株  29億3664万円
             福島良典    5万株   7600万円   

・イトクロ        山木学     169万株  30億76万円
(後日27万3900株を市場外で処分 4億8633万円分追加)

・ツバキ・ナカシマ    近藤高規  112.48万株  16億8720万円
             インタートラストコーポレートサービス 8507万株 127億6140万円

 左から上場企業名、売り出しに掛る創業者株主、売却株数、売却額となる。この中で最も大きいのが、最後に挙げたツバキ・ナカシマに登場するPE系インタートラストコーポレートサービスだ。発行済み株式の90%以上を保有している形だから、ここの意向が強い。

 ツバキ・ナカシマは鋼球の世界的優良企業として広く知られているが、一度は野村証券系の投資ファンドによって非上場化し、株式がセカンダリー市場で米プライベートエクイティのカーライルに90%以上の株式がわたったという事情がある。自然とイグジット方法を模索することになり、売却か上場かという有力な選択肢は上場ゴールを作り出す背景があった。今回はその約半分を売り出した。今後、残りの半分をどう売却するのか? 潜在的な売り圧力を持つ存在で在り続けていく。

◆ツバキ・ナカシマの非上場化から再上場まで◆

2007年1月 野村証券系ファンド「NPF」が1046億円で買収しMEBOで非上場化

2011年3月 米系PEカーライルがセカンダリーにてで387億円で買取

2012年9月 再上場申請を東証に行う(後に取り下げ)

2014年11月 1株あたり178.85円の配当実施を決定、総額で70億円

2015年12月 東証に再上場を果たす

 事業も財務も両面で超優良企業として知られていたが、突然の非上場化、さらには8年ちょっとでの再上場は不可解ではある。非上場化の狙いを会社は、海外生産と流通拠点を整備することだとしており、そのパートナーにカーライルグループを選んだとのことだ。イグジットとして再上場は有力な選択肢に入っていたことだろう。途中経過は非上場化していることもあるが、かなり複雑だ。それでも最終的には、カーライルと、創業家出身でシンガポール在住の近藤氏が16億8720万円ほどの売却益を得た。

 業績も一見すれば伸びているように見えるものの、会計が日本式からIFRSに移行しており、のれん償却をする必要がないために、実質的には間引いて見る必要がある。不可解な非上場からの再上場となったが、PEと創業家はしっかりと利益を確保した。

 Gunosyは、シンガポール在住のシリアルアントレプレナーの木村良司氏が29億円以上を売り出し。共同創業者でもあり、昨年の赤字決算の発表と役職の退任時期が近かったために憶測を呼んだ。gumi以来の上場ゴールではないか、との指摘が出たが、ツバキ・ナカシマととはスケールが違う。

 日本スキー場開発は、日本駐車場開発の子会社からスタートし、いわゆるスピンオフ上場となる。株価こそ下落しているが、上場後の業績推移は底堅い動きをしている。

 イトクロは創業者山木学氏が約35億円分の保有株売り出しを行い、個人の金額としてはかなり大きい。メニコンの田中英成社長の80万株、13億3600万円よりも遥かに大きい。上場後も業績は上がっており、株価も上昇している。創業利益も得ているものの、また新たな飛躍のきっかけにつなげているようだ。

 上場ゴールとは、時間軸をいつまでにするかが難しく、いつの時点と比較するかで変わってきてしまう。

 また、他で目立った所では、リッチメディア、ネットマーケティングが上場申請を取り下げている。後者は創業社長が約7億円の売り出しを行う予定だった。そのままIPOをしていれば、上場ゴールになりそうな勢いだったが、取り下げで難を逃れた。

 有名人としては、テラスカイには、お笑いタレント「厚切りジェイソン」として有名なダニエル・ジェイソン・デビッド氏の名前があり、1万1380株を保有している。ジグソーはAKB48グループ総合プロデューサーの秋元康氏が1万1000株を保有している。アップバンクの人気ユーチューバー、マックスむらい氏は8万7000株を9604万円で売り出している。

よかったらシェアしてね!
目次
閉じる