山本幸三新内閣府特命担当大臣インタビュー「日銀に騙されるな」

 安倍晋三内閣の改造が発表され、山本幸三氏が内閣府特命担当大臣(地方創生 規制改革 まち・ひと・しごと創生担当 行政改革 国家公務員制度担当)として初入閣した。
 山本氏はアベノミクスの仕掛け人として知られ、リフレ(リフレーション:デフレによって停滞している経済を正常な状態に戻すためにインフレ誘導を行うこと)派の有力者の1人だ。

 ゆかしメディアはかつて、大臣就任前の山本議員にインタビューしている。その後の検証も含めて、山本氏の考えを聞いてみよう(インタビューは2013年1月に実施)。

――アベノミクスはどのようにして生まれたのですか?

 アベノミクスの基本はデフレと円高からの脱却。最優先課題は金融政策だ。これまで金融政策は根本的に重要だということがあまり認識されていなかったが、安倍さんにはそこをしっかりと認識してもらうことができた。


山本幸三氏
 もともとは2011年に3・11が起きたときに、私は「政府と日銀が政策協定を結び、復興国債を日銀が全額買い切るオペをすべきだ」とアピールした。その際、安倍さんには超党派の議員連盟「増税によらない復興財源を求める会」の会長に就任してもらった。この勉強会を重ねるにつれ、安倍さんは「経済再生を阻んでいるのは日銀だ」との確信を深めていった。

 当時の菅総理、野田財務大臣は日銀と財務省にコントロールされていて、結局、提言は採用されずに増税路線が敷かれていった。こんなことでは本当にデフレ脱却は遠のくので、日銀法を改正して、デフレ・円高を解消する議員連盟に組み替えて、再び安倍さんに会長になってもらった。

 そのときの勉強会では、イェール大学の浜田宏一名誉教授、学習院大学の岩田規久男教授、東京大学の伊藤隆敏教授など、私が知っている人たちを中心に講師を務めてもらった。これらの勉強会がアベノミクスの源流となった。

大切なのは期待感を変えること

――具体的に日銀に求める政策は?

 最低でも2%の物価目標政策を掲げ、それを実現するための積極的な量的緩和をやってもらおうというのが政策の中心。今後、大事なのは、日銀のへんなごまかしに騙されないこと。日銀はお金を出したって銀行に貯まるだけで、貸し出しには回らないと主張する。我々は、それはそれでいい、大事なのはデフレ期待からインフレ期待に〝期待感〟が変わることだと主張している。

〝期待感〟が変わることによって、お金が動き出す。まず、みんなすでに結構お金を持っているので、それを使いだす。物価が上がると思えば消費も投資も増える。実際に銀行貸し出しが増えるのは何年か後だ。だから、「すぐに貸し出しは増えない」という日銀のへんな言い訳に騙されてはいけない。

 今度、日銀と政府が政策連携の共同文書を作ることになっているが、懸念しているのは、また日銀の騙しのテクニックにやられてしまうのではないかということ。協定で〝期限〟を定めず、中長期的なというような曖昧な言い方だと、結果的に今までとそれほど変わらない。相変わらず日銀がちんたら緩和するだけではダメだ。本当は「1年半以内」などの期限をもうけるのがいいので、これは党や国会の議論でこれからちゃんとしていかないといけない。

 また、「金融政策だけでデフレは脱却できない」という日銀の議論にはまってはいけない。デフレや円高は貨幣的な問題なので、必ず金融政策で解決できる。そこをはっきりさせなければいけないのに、前回の民主党の協定のときもそうだったが、「政府側としては構造改革、規制緩和、成長力強化をしないとデフレ脱却はできない」と書かされた。だから共同責任だとなると、日銀の責任が不明確になる。

日銀のロジックに騙されてはいけない

――金融政策だけでデフレを脱却できますか?

 なぜ金融政策だけでできるかというと、日銀が仮に国債を買いまくれば、どこかで必ず物価が上がってデフレから脱却する。デフレ脱却は金融政策で絶対にできる。そのロジックをみんな理解していなので、「成長力強化がないとダメだ」というような話が出てくる。日銀のロジックにみんな騙されている。それらをみんな踏まえた協定が理想的であり、これからきちんとフォローアップしていかねばいけない。いずれにしても安倍さんの最大の政策課題であるデフレ・円高脱却は、金融政策が一番のかなめだ。

――具体的な政策はとらない、となったときは?

「なんだ、今までと変わらない」という感じで市場は失望するだろう。ただし、今後は期限を切って実行していく、という方向で私たちが議論を盛り上げていかねばならない。「成長力強化が必要」というロジックでも、日銀の白川総裁(当時)は再び騙しに入っている。ロケットスタートで始まったアベノミクスが、今ちょっと勢いを失っているところだ。そこも私たちがこれから考えていく。

円相場と株価はまだ適正水準ではない

――市場はすでに〝期待感〟をかなり織り込んだのではありませんか?

 私たちのシミュレーションによれば、2%の消費者物価指数にするためには、現在120兆円のマネタリーベースを160兆円にしなければいけない。あと40兆円純増しないといけない。日銀は基金の金額を10兆円増やした格好をするが、基金で購入するのは期限3年以下の国債。数字だけ積み上げるが、恰好だけ。

 大事なのはマネタリーベースを増やすことであり、グロスでは増えても、ネットでは増えないということがないようにチェックしていく。マネタリーベースがきちんと増えれば、日経平均は11,300円、ドル円は98円になるだろうと試算している。それくらいがちょうど日本経済のファンダメンタルズだ。IMFも今の円レートは15%程度割高だとはっきり言っている。

――4月の日銀総裁交代以降、政府の意向がかなり通るようになる可能性は?

 金融政策の大切さを理解している人がなればそうなるだろう。誰がというのは安倍さん次第だが、たとえば岩田規久男さんや伊藤隆敏さんなら、金融政策の大切さを本当に理解している。

長期金利急騰の心配はない

――日銀が国債を引き受けると政府債務のファイナンスと見做され長期金利が急騰する懸念は?

 国債の買い手がいなくなったときに初めて長期金利は上がる。日銀という買い手がいるのに長期金利が上がるのは論理的におかしい。長期金利が上がるわけはない。物価目標を2%にしても、私たちが上げようとしているのは〝期待インフレ率〟だ。〝期待インフレ率〟が上がることによって、実質金利が下がる。だから効果が出てくるという経済理論だ。

 ところが日銀は〝期待インフレ率〟を上げると、実際のインフレ率も上がってしまうので、実質金利は変わらず効果はないという議論をする。それに対して私たちは、「実証的にそんな例は一つもない」「実際の名目金利はすぐには上がらない」「実質金利が下がる状況が続いて、実際の名目金利が上がるのは1~2年先だ」と主張している。

 日銀の議論は完全雇用の状態では成り立つ。これが前提条件。ところが日銀はこの前提条件を省いて反論する。今の日本は不完全雇用で失業者が多い。GDPギャップも15兆円もある。実際の金利は完全雇用になって始めて上昇する。それまでは経済が成長して所得と貯蓄が増えるので、その分、国債を含めた資産需要が増える。ここも日銀に騙されてはいけない点だ。

――次の日銀総裁にはどんな人になってほしいですか?

 具体的に誰かというのはいろいろと語弊があるが、心からのインフレターゲット論者を期待している。

その後の検証

 インタビューを行った2013年1月の日経平均は1万円、ドル円は89円22銭だった。その後日経平均は上昇し現在は16000円、ドル円は101円となっている。

 日銀との関係について、総裁には黒田東彦氏が、副総裁にはインタビュー中に名前の出た岩田規久男氏が就任した。
 長期金利に関しては、急騰どころか現在マイナス金利になり、住宅ローンの借り換えや住宅の建設などが活発だ。

 金融政策に関しても、「黒田バズーカ」といわれた量的緩和など様々なことが実施された。効果があったとは言えないものもあるが、一定の成果を挙げたと言ってよいものもある。

 ゆかしメディア編集部が山本氏にインタビューしたのは2013年だが、その内容はかなり未来を見越していたと言える。

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