大統領選スタート。トランプに賭けるカリスマヘッジファンドマネジャー

 いよいよ始まったアメリカ大統領選挙の投票。現地時間で11月8日夜8時54分現在、獲得投票数はクリントン候補が約1300万票、トランプ候補が約1500万票となっている。
 このままいくとトランプ大統領ということになるが、後半で離脱が残留を上回ったイギリスの国民投票のこともあり、まったく状況は読めない。

 以前の記事で、投資家はクリントン候補が当選と読んでいる数が多いと書いたが、トランプ候補の当選を強く望んでいるヘッジファンドマネジャーがいる。
「金融史に残る最高のトレード」とまで呼ばれるトレードを成功させた人物、ジョン・ポールソン氏だ。

 ポールソン氏はフォーブスが発表した億万長者番付で108位、資産額は86億ドルだ。2010年は49億ドルを稼いだとして、報酬ランキングでトップになったほか、複数回にわたり報酬額1位を記録している。

 長年にわたって大きな実績を残しているポールソン氏だが、今年の運用成績は芳しくない。2011年に約380億ドルあった運用資産は、現在約120億ドルになっている。

 ウォール・ストリート・ジャーナルによると、ポールソン氏のファンド「ポールソン・アドバンテージ」は年初から9月までで18.5%下落。「ポールソン・パートナーズ」は22.3%、「ポールソン・スペシャル・シチュエーションズ」は29%それぞれ下落した。

クリントン候補の発言で大損

 大きな理由は、医薬品株への大きな賭けに負けたことだ。
 ポールソン氏はこの2年にわたり、製薬業界の再編が加速し、これに関与する特殊医薬品メーカーの成長見通しが明るくなると投資家に訴えてきた。
 ポールソン氏は2014年後半、主要保有銘柄の1つであるカナダの製薬会社バリアント・ファーマシューティカルズ・インターナショナルの株価は250ドルに達するとの見通しを示した。

 実際に製薬に関する割合を増やしており、最新の有価証券報告書によると、2016年6月末時点で保有が目立つのが、アイルランドのアラガン社の株式394万8451株で、金額にして9億1244万8000ドルだ。このほか後発医薬品で世界大手のマイラン(2202万8061株、9億5249万3000ドル)、シャイア(519万4600株、9億5622万2000ドル)、後発医薬品世界最大手のテバ・ファーマシューティカル・インダストリーズ(1677万3800株、8億4254万8000ドル)と製薬各社の株式保有が目立つ。
保有上位10銘柄のうち、6銘柄が医薬品株だった。

 だが医薬品株が上がるという彼の読みは外れた。ヘルスケア関連株は年初来で6.1%下落し、S&P500種指数を構成する11業種の騰落率で最下位となっている。ポートフォリオで組み入れ比率が高いシャイアーやマイラン、アラガン、テバファーマスーティカル・インダストリーズといった銘柄はそろって年初から急落。一方、S&P500種指数は2.2%上昇している。

 医薬品株の下落を招いた大きな要因が、大統領選だ。クリントン候補が演説で「製薬会社の薬価は高過ぎる」とやり玉にあげたことから、株価が急落した。

 クリントン候補が大統領になり、実際に薬価を下げるような政策がとられたならば、その株価はさらに下落する可能性もある。
そのため、ポールソン氏は共和党、トランプ候補の支持をしているとされる。

 財政に関して、トランプ候補は減税を公約としているのに対し、クリントン候補は富裕層への増税を明言している。
 具体的に実施される政策がどのようなものかはクリントン大統領が誕生してからでなければわからないが、ポールソン氏以外の多くのヘッジファンドマネジャーがクリントン候補を支持していることからして、ヘッジファンドが顧客とする富裕層へのクリントン氏の政策のほうが、ヘッジファンドマネジャーたちにとって歓迎すべきものと考えているようだ。

 もちろん税金の額は多いよりも少ないに越したことはないが、もともと「戦争や政変などで資産が暴落するリスクをヘッジするために誕生したヘッジファンドゆえ、市場の動きにリターンのチャンスを見出す。

 ポールソン氏も、現状に対し手を打っていないわけではない。同社で規模が最も小さいものではあるが「ゴールド・ファンド」は80%上昇するなど、反攻のチャンスを窺っている。

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