相続税は、どう増税されたか?

監修:田中誠(相続専門税理士・税理士法人エクラコンサルティング代表)

「相続税法が改正され、相続税が多く課されることになった」
 この記事を読んでいるあなたは、そのような話を耳にし、「うちも相続税を支払わなきゃかも!?」と思ったり、対策を始めているかもしれません。
 あるいは「とはいえ、何から手をつけたらいいのか……」と、途方に暮れているところかもしれません。


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 まず知るべきは、相続や相続税に関する正しい知識です。それがわかっていれば、対策を打つことができます。

 相続税は複雑で、それぞれのご家庭の資産状況により計算方法も異なります。
 専門家でなければわからない部分が多いですが、まずは一般的な形を把握できれば、そのあとに「うちの場合はどうなのか?」を考えていくことができます。

 個別のケースは税理士に相談する形になりますが、何もわからずただ相談に行くのと、ある程度わかっていて話をするのでは、その後に見込める効果が大きく変わってくるのです。

 相続税の仕組みからその計算方法、相続発生前にできる対策や、相続発生から相続税納付までのスケジュールなどを説明していきたいと思います。
 相続は始まってしまったあとでは、できることが極端に少なくなってしまい、打てる節税策も限りがあります。

 私は相続専門の税理士として、相続発生前にきちんと対策を打っていく方法を指南させていただき、相続税を大幅に節税できた、先祖代々の土地や長年暮らした家を手放さずに済んだ、といった声を多くいただいています。

「資産は3代でなくなる」と言われるくらい、日本の相続税は高く、資産家の悩みの種ですが、相続や相続税についてきちんと知り、対策を打つことで、税額を少なくし、資産を守ることができます。

 富裕層のみなさんの、資産を守っていただくお手伝いができればと思っています。

目次

その相続対策で大丈夫? 予期せぬ相続税が発生するかも!

基礎控除額の減少は実質増税

 まずは、最近の相続税法の改正について解説します。
 2015年1月1日から、相続税は実質的に増税になりました。そのからくりは「基礎控除」です。

 相続税は、財産を相続した全ての人にかかるのではなく、課税される相続財産の額が相続税の基礎控除を超える場合にのみかかります。基礎控除額は相続人が何人いるかによって変わり、

 2015年1月1日以前は、基礎控除額は

5000万円+法定相続人の数×1000万円

 でした。夫婦に子供2人の標準的な家庭の場合、両親のどちらかが亡くなって相続が発生すれば、法定相続人は3人となり、基礎控除額は

5000万円+3000万円(法定相続人3人×1000万円)=8000万円

 でした。

 2015年1月1日以降、基礎控除額は

3000万円+法定相続人の数×600万円

 となります。先ほどと同じ条件の家族で計算すると、基礎控除額は

3000万円+1800万円(法定相続人3人×600万円)=4800万円

 です。基礎控除が、金額にして3200万円も減ってしまいました。



 この結果、どうなるのでしょうか。
 相続税はこれまで、「支払う人は相続の発生した全人口の4%程度」といわれていました。多くの人にとって、相続の対象となる資産は基礎控除額の範囲内に収まっていて、相続税を支払う必要はなかったのです。
 ところが、基礎控除額が下げられたことで、相続税を支払う対象は広まっています。

 先日公表された平成27年度の相続税課税対象者は、全国平均で前年の4.4%から8%にも上がりました。東京国税局管内に限っては、12.7%にもなります。
「資産家からはより多く、資産をやや持っている人からもしっかり取る」それが相続税です。

相続税率が改正でアップ!

 基礎控除額だけでなく、相続税率自体も上がりました。
 今回の改正で、3億円を超える相続財産を持っている人は税率がアップし、相続人1人当たり6億円超の財産を相続する場合、55%の最高税率が課税されることになります。

 相続税の対象となる財産を多くの人は、不動産で所有しています。国税庁が発表している2014年の相続財産の内訳は、土地が41.5%、家屋5.4%、有価証券15.3%というように、不動産の率が非常に大きくなっています。


平成26年度の相続税申告状況 国税庁ホームページより
 一昔前の相続税対策では、財産を現金ではなく不動産に変えておくことが、節税効果が高かったためです。実際に相続が発生し、現金が必要になれば不動産を売ればよい、節税に加えて、納税資金の確保でもありました。

 しかし、今では逆に、資産を不動産で持つことに新たなリスクも生じています。

 不動産は、資産の価値は上下しても、株式のようにゼロになってしまうことはありません。その一方で換金性が低いため、相続が発生し、相続税を支払うためにお金が必要となった際、家や土地を売ることにしても、買い手がつかなければそう簡単には売れません。

 なんとか売ることができたとしても、急いで手放す不動産は「なんとか早く買ってもらう」ことを目指しての売却になるため、市場の相場からすれば考えられないような安値で手放さざるを得なくなることもしょっちゅうです。

 また、相続対策で不動産が人気だった時代はバブル期で、土地の価格(地価)は異常なまでに高くなっていました。その後土地バブルは崩壊し、土地の価格は急落していったのですが、相続税の計算に用いられる「路線価」は、それほど下がりませんでした。

 その結果、不動産を売っても予定通りの納税資金が得られない人が続出してしまったのです。

対策の失敗が巻き起こした悲劇

 具体例をお伝えします。東京近郊に住む地主一家で相続が発生しました。父親はすでに他界。父親が亡くなったときの相続(一次相続)で、現金などの資産を相続税の支払いに使っていたため、残っているのは土地だけでした。

 母親が亡くなった今回の相続(二次相続)では、母親が相続した分も新たに引き継がれることで、新たに億単位の相続税が課されることになりました。
 相続の発生から相続税の申告・納税期間は10カ月です。その間、土地の価格は下落していたため、路線価での評価と逆転が生じていました。

 土地をいくつか売却しただけでは、巨額の相続税を支払うことは到底できません。急ぎ売ろうとしても、買い手はなかなかつきません。
 しかし、売れるのをのんびり待っている暇などないのです。その地主一家は、相場よりもはるかに安い価格で、所有する土地のほぼすべてを泣く泣く売却し、納税資金を確保しました。

 この一家の話は、相続税が引き起こした悲劇ですが、相続専門の税理士をしている私に言わせていただければ、対策をしっかりできていれば、充分に防げた、少なくともほとんどの土地を手放すような事態にはならずに済んだと思っています。
 具体的な方法については今後お伝えしていきますが、「相続は専門家と連携しての事前の対策が9割」と思っていてください。

 最後に「首都圏相続税危険度エリア」を掲載します。東京・神奈川・埼玉・千葉で戸建て住宅や土地を持っている人を対象に路線価で単純に計算した結果、相続税の納税義務が発生する可能性の高いエリアです。



 東京23区で相続税の納税義務が発生しやすい危険地域は、文京区・千代田区・中央区・港区・渋谷区・目黒区・品川区・世田谷区・中野区などで、どこも都心部で、その中でも路線価の高いところです。

 なお、23区以外でも路線価次第では相続税の対象になる可能性があるところはたくさんあります(より詳しい危険度一覧を拙著『お金持ちのための最強の相続』(実務教育出版)に掲載していますので、ご興味がある方はご覧ください)。

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