100%人工知能のヘッジファンドが登場?

 この度、100%AI(人工知能)のヘッジファンドが誕生したと、ブルームバーグが報じた。

 コンピューター科学者で、アップルの音声アシスタント機能「Siri(シリ)」の基盤作りにも寄与したセンティエント・テクノロジーズの共同創業者、ババク・ホジャット氏は、株取引においてネックとなるのは、人間が感情的であることだと結論づけている。そこで人間が決定に一切関与しない、100%人工知能(AI)に任せる新興ヘッジファンドを始めたという。


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 株式投資で、感情がこもった結果失敗をした経験のある人は多いだろう。
 持っている株が値上がりしても「もっと上がるかもしれない」と思い、その後下がり一番の売り時を逃す。
 保有株式が下落しても「待っていればまた持ち直す可能性もある」と、期待も込めて保有し続けた結果、起こったのはさらなる下落、早めに損切りすれば小さくできた損失を、大きく被る。
 株取引はいわば、人間である自分との戦いであるとも言える。

 人工知能による取引は、そのような人間の感情が入る余地がない。粛々と、状況を見て売買を行っていくだけだ。
 果たしてAIは株取引の世界にどのような影響を与えるのか。ホジャット氏は、AIを活用することによって、素人もウォール街のプロに対して優位に立てると見込んでいるという。

 現在、運用にコンピュータープログラムを活用することはヘッジファンドの世界では主流になっている。
 ヘッジファンド・マネジャーの報酬ランキング上位者のほとんどが、コンピュータープログラムの利用者だ。
 コンピュータープログラムによる運営で大きな成果を上げているヘッジファンドが、ツーシグマだ。
 ツーシグマの創業者デービッド・シーゲル氏とジョン・オーバーデック氏は2015年のヘッジファンド・マネジャー報酬額ランキングでともに7位、それぞれ5億ドルを稼いでいる。

 ツーシグマは人間の意思決定を考慮できる人工知能のアプローチを可能にできる開発を日々行っており、シーゲル氏はかつてインタビューで、以下のように答えていた。
「これからはコンピューターがすべての思考活動を行う、と言う人もいるが、今でも解決すべき“問題の設定”を行っているのは人間だ。コンピューターのアルゴリズムは、これまで人が考えもつかなかったリスクを発見できるかもしれないが、問題設定能力を持っているようになるかは疑問だ」
ツーシグマは人工知能の向上性能に期待をしつつも、人工知能と人間の役割は異なるのではないかと考えている。

 今回開発されたAIヘッジファンドも、人間が常に経過を観察しており、緊急停止ボタンもあることから、決して100%のAIとは言えない。
 万が一AIシステムをシャットダウンしなければならない場合に備え、2人の男性が取引を見守っている。
「とんでもない事態が生じた場合に備えて、緊急の停止ボタンはある」センティエント・テクノロジーのホジャット氏はそのように語っている。

 人工知能が発達したとはいえ、機械にできるのはそこまでで、その先の細かい対応等は人間でなければならないのが現時点だ。
 ツーシグマのシーゲル氏は、こうも語っていた。
「コンピューターで割り切れない人間の意思決定による部分を、いかにコンピューターが把握できるようになるかが大切」
 今後の技術革新が進んだ結果、100%AIのヘッジファンドが誕生する可能性は十分にあると言える。
 なお「100%AIのヘッジファンド」と聞くと、多くの人が期待するのが「絶対に儲かる運用ができるのか」だ。
 それについては、同社は詳細を明らかにしていない。

 センティエント・テクノロジーズには香港の富豪、李嘉誠氏が所有するベンチャーキャピタルやインド最大の財閥、タタ・グループなどがこれまでに1億4300万ドル(約160億円)を出資している。

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