ヘッジファンドに絡まれた伊藤忠が最高益

 大手商社7社の2017年3月決算が出そろった。昨年度に赤字転落していた三菱商事、三井物産が黒字に転じたほか、伊藤忠商事、豊田通商は過去最高の純利益を計上した。

 注目すべきは過去最高益を達成した伊藤忠商事だ。
 2016年7月、同商事に関する衝撃的なニュースを覚えている人もいるかもしれない。
 アメリカの投資ファンド、グラウカス・リサーチ・グループが、「伊藤忠商事が1531億円相当の減損損失の認識を意図的に回避し、2015年3月期の当期純利益を過大報告したと考えている」という調査レポートを公表したからだ。

 レポートは42ページ(日本語版は44ページ)にわたる膨大なもので、発表したグラウカスは上場企業の不正会計を調査し、空売りを仕掛けて公表するファンドで、これまでも数々の会社の不正などを暴いてきた。

「金融界の探偵」の異名をとるヘッジファンド・マネジャー、ジェームズ、チェイノス氏がトップのファンドで、チェイノス氏は2001年にアメリカのエネルギー会社大手のエンロン社の不正会計を見抜いたことで有名だ。

 不正の事実を公にすることで、その会社の株価は大きく下落することになる。同ファンドは下落時に儲かる空売りをすることで、大きな利益を得る。

 グラウカスの発表を受けて市場は混乱、伊藤忠の株価は一時、年初来安値を更新した。
 寝耳に水の同社はそのレポートの内容が事実ではない旨を主張、伊藤忠商事の鉢村剛代表取締役CFO(最高財務責任者)は、20分間に及ぶ大反論を展開した。

 鉢村氏は反論しつつも「騒げば騒ぐほど、グラウカスのネームバリューを上げることになる。株主を不安にさせること、そしてマーケットが混乱することは本意ではない」と、あくまでも淡々と、事実とは異なると言うにとどめていた。

 今回の大手7社が黒字に転換した主な理由は、円安や生産調整などによる石油、石炭など資源価格の上昇だ。資源の採掘事業を行っている商社にとって、価格の上昇はそのまま利益の拡大につながる。

 そのため、黒字転換した商社の幹部も「資源価格が変わればまた大きく動く可能性がある」と、決して楽観はしていない。

 そのような状況下でも、伊藤忠商事は資源以外の部門も好調だった。食料部門では、子会社ドールの業績改善や約34%を出資するユニー・ファミリーマートホールディングスが好調で、純利益が450億円増加した。全体的に好調であることを受けて、同社の岡藤正広社長は18年3月期に「純利益4000億円を目指す」と話している。

 完全に鎮静化した印象のある空売り騒動であるが、グラウカスは、ほかにも何か握っているのか。
 それとも、一時期株価を下げさせたことで、空売りによる利益を得ただけだったのか。

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